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ベーコンの新機関の対極

ベーコンの新機関の対極

スコラ哲学の伝統と権威

フランシス・ベーコンの『ノヴム・オルガヌム』(新機関)は、1620年に出版された、近代科学の方法論を提唱した画期的な著作として知られています。この著作は、それまでの西洋思想界を支配していたアリストテレス主義的なスコラ哲学の権威を批判し、経験と帰納法に基づく新しい科学的方法を提唱した点で、大きな転換点となりました。

スコラ哲学は、中世ヨーロッパにおいて11世紀頃から発展した、主にアリストテレスの哲学に基づく学問体系です。スコラ哲学は、聖書や古代ギリシャの哲学者たちの著作を権威とみなし、論理的な推論や議論を通じて知識を深めようとする方法を重視しました。代表的なスコラ哲学者には、トマス・アクィナス、アウグスティヌス、アンセルムスなどが挙げられます。

ベーコンは、スコラ哲学が、観察や実験よりも、論理や権威を重視していた点を批判しました。スコラ哲学者は、アリストテレスの著作を絶対的な真理とみなし、その内容に反するような観察結果や実験結果は無視される傾向にありました。

ベーコンは、このようなスコラ哲学の姿勢を「イドラ」(偶像)と呼び、真の知識の獲得を妨げるものとして批判しました。ベーコンは、真の知識は、観察、実験、帰納法を通じてのみ獲得できると主張しました。

具体的な対比:アリストテレス『オルガノン』

ベーコンの『ノヴム・オルガヌム』のタイトル自体が、アリストテレスの論理学に関する著作集『オルガノン』に対する挑戦状となっています。『オルガノン』は、演繹法を中心とした論理学を体系的にまとめたものであり、中世スコラ哲学においても非常に重要なテキストとして位置づけられていました。

ベーコンは、『ノヴム・オルガヌム』において、アリストテレスの演繹法を否定するものではありませんでしたが、演繹法だけでは新しい知識の発見には不十分であると主張しました。ベーコンは、演繹法が既知の知識から新たな結論を導き出すことはできても、未知の現象を解明するには限界があると考えたのです。

一方、ベーコンは帰納法を重視しました。帰納法は、多数の具体的な事例を観察し、そこから一般的な法則を導き出す推論方法です。ベーコンは、自然界の観察と実験を通じて得られた大量のデータから、帰納法を用いて一般的な法則を導き出すことが、新しい知識の発見につながると考えました。

『ノヴム・オルガヌム』は、具体的な事例として、熱の性質に関する考察を展開しています。ベーコンは、様々な現象を観察し、熱の本質は物体の微小な運動であると結論付けました。これは、アリストテレスの四元素説に基づく熱の解釈を否定するものであり、観察と帰納法に基づく新しい科学的方法の有効性を示すものとして提示されました。

このように、『ノヴム・オルガヌム』は、スコラ哲学の伝統と権威、特にアリストテレスの論理学を批判し、経験と帰納法に基づく新しい科学的方法を提唱した点で、画期的な著作と言えるでしょう。

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