ベンサムの道徳と立法の諸原理序説に影響を与えた本
デイヴィッド・ヒューム著『人性論』の影響
ジェレミー・ベンサムの傑作『道徳と立法の諸原理序説』（1789年）は、功利主義の倫理思想の体系的な展開であり、法と社会政策に対する永続的な影響を与えてきました。この影響力のある著作を形成する上で重要なのは、スコットランドの啓蒙主義の哲学者デイヴィッド・ヒューム、特に彼の1739年から40年にかけての著書『人性論』でした。この本の中で、ヒュームは道徳哲学、認識論、および人間の本性に関する経験論的アプローチを提示し、これはベンサムの功利主義の原則と密接に関連する洞察を提供しました。
ヒュームの影響は、『諸原理序説』の冒頭の文章にすでに明らかであり、ベンサムは「自然は、人間を快楽と苦痛という2人の主人の支配下に置いた」と有名な言葉を述べています。この主張はヒュームの道徳哲学の中心的な主張と共鳴しており、これは、人間の行動は、理性よりもむしろ快楽と苦痛の追求と回避によって導かれると主張しています。ヒュームは、理性は私たちが自分の欲望を満たす手段を決定する上で役割を果たすことができると信じていましたが、これらの欲望自体を決定する上では、理性は「情熱の奴隷」であると主張しました。
ベンサムの功利主義の原則である、「最大の数の最大の幸福」の原則は、ヒュームの影響を強く受けています。ヒュームは功利主義者ではありませんでしたが、道徳的評価における快楽と苦痛の重要性を認識していました。彼は、私たちが特定の行為や性格の特性を承認したり、不承認したりするのは、それらが一般的に幸福や幸福をもたらすか、不幸や苦痛をもたらすかを知覚した結果であると主張しました。この考えは、ベンサムの功利主義の計算に共鳴しており、功利主義の計算は、さまざまな行為の道徳的価値を評価するための基準として、それらが生み出す快楽と苦痛の量と質を考慮することを目的としていました。
ヒュームの経験主義の哲学もベンサムの思想を形作る上で影響力を持っていました。ヒュームは、すべての知識は感覚経験に由来するという考えを擁護する、徹底した経験論者でした。彼は、理性や先天的なアイデアは道徳的または政治的義務の確固たる基礎を提供することができないと主張しました。ヒュームの経験主義は、ベンサムが法と社会政策に対する投機的または形而上学的アプローチを拒否したことに反映されています。代わりに、ベンサムは、観察可能な結果と個人の実際の経験に基づいて法律や制度を評価することを目指しました。
さらに、ヒュームは、社会における正義と政治的権威の基礎を確立する上で有用性に中心的な役割を与えました。彼は、政府と法律の必要性は、人類の利己心と限られた資源から生じると主張しました。政府がない場合、人々は「すべての人に対する戦争」の状態に陥り、その中で、個人の権利は絶えず侵害されることになります。ヒュームによれば、正義と政治的権威のルールは、社会の利益を促進し、個人の安全と協力を確保するために必要です。
正義と政治的権威に対するヒュームの功利主義的説明は、ベンサム自身の思想に深く共鳴しました。ベンサムは、法律と制度の目的は、最大の数の幸福を促進することであると信じていました。彼は、特定の法律や政策が実際に有益な結果をもたらすかどうかという点で、法律と政策を評価することを主張しました。
結論として、デイヴィッド・ヒュームの『人性論』は、ジェレミー・ベンサムの『道徳と立法の諸原理序説』に大きな影響を与えました。ヒュームによる道徳判断における快楽と苦痛の役割、経験主義、および有用性の強調は、ベンサムの功利主義の哲学、彼の法理論、および社会および政治的改革への実用的なアプローチの形成に役立ちました。道徳哲学、経済学、政治思想におけるベンサム自身の貢献を通じて、ヒュームの影響は今日まで感じられ続けており、これらの分野における思想と議論を形作っています。