ヘーゲルの歴史哲学講義の感性
ヘーゲルにおける感性の位置づけ
ヘーゲルにとって感性は、認識の最低段階であると同時に、精神が客観的な世界と出会う最初の段階です。彼は、感性を精神が自身の外に立つものとしての自然と直接的に関係する段階だと捉えます。ただし、感性的な認識は対象をそのまま受け取るだけであり、真の意味での認識であるためには、理性による媒介が必要不可欠であるとヘーゲルは主張します。
感性の二つの様態:感覚と知覚
ヘーゲルは感性を、さらに「感覚」と「知覚」の二つの様態に区別します。感覚は、対象の個別具体的な性質を捉える段階です。例えば、リンゴの赤さや丸さ、硬さなどは感覚によって捉えられます。しかし感覚は、これらの性質をバラバラに捉えるだけであり、対象を統一的なものとしては把握できません。
知覚は、感覚によって得られた個別の性質を統合し、対象を統一的なものとして把握する段階です。知覚によって私たちは、バラバラの感覚的性質の背後にある、対象の恒常的な同一性を認識することができます。
感性の限界と克服
ヘーゲルは感性を認識の出発点と認めつつも、感性のみでは真の認識に到達できないと主張します。なぜなら、感性は対象を常に個別具体的なものとして捉えるだけであり、普遍的なものや概念を把握することができないからです。真の認識は、理性による概念の把握によって初めて可能になるというのがヘーゲルの立場です。
ヘーゲルによれば、感性は理性の内に包摂され、克服されるべきものとして位置づけられます。理性は感性を否定するのではなく、感性をより高次の段階へと揚棄することによって、真の認識へと向かうのです。