## ヘルダーの言語起源論の思考の枠組み
### 1. 啓蒙主義とロマン主義の架け橋としてのヘルダー
ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー(1744-1803)は、啓蒙主義とロマン主義の時代を生きたドイツの哲学者、神学者、詩人、文学理論家です。彼の思想は、理性と経験を重視する啓蒙主義の伝統を受け継ぎつつ、感情、歴史、文化の重要性を強調するロマン主義の先駆となるものでした。
### 2. ヘルダーの言語観:思考と言語の密接な関係
ヘルダーは、言語を単なるコミュニケーションの道具としてではなく、人間の思考と密接に結びついたものとして捉えました。彼は、人間が思考するためには言語が必要であり、言語は人間の思考を形作り、表現するものだと考えました。
彼の著書『人間性形成のための歴史の哲学についての理念』(1784-91)の中で、ヘルダーは人間を他の動物と区別する重要な要素として言語を挙げ、言語の発生が人類の精神的進化の始まりであったと主張しました。
### 3. ヘルダーの言語起源論:理性ではなく人間の内的能力から発生する言語
ヘルダーの言語起源論は、当時の主流であった、神が人間に言語を与えたとする「神授説」や、人間が理性的に言語を作り出したとする「発明説」とは一線を画していました。彼は、言語は人間の内的能力、特に感覚、感情、想像力から自然発生的に生まれたものだと主張しました。
ヘルダーは、人間が周囲の世界を五感で感じ取り、その感覚を記憶し、感情や想像力を伴って表現しようとする過程で、自然と音声や身振りが生まれ、それが言語へと発展していったと説明しました。
### 4. ヘルダーの言語進化論:言語は社会と共に変化する有機的なもの
ヘルダーは言語を、完成された固定的なシステムではなく、社会や文化と共に変化し続ける有機的なものだと考えました。彼は、言語は人間の思考や文化を反映し、それぞれの民族や時代によって異なる独自の言語が形成されると主張しました。
また、言語は単純なものから複雑なものへと進化していくという考えにも反対し、それぞれの言語は独自の複雑さと完成度を持つとしました。
### 5. ヘルダーの言語起源論の影響:比較言語学や民族学の発展に貢献
ヘルダーの言語起源論は、後の言語学、特に比較言語学や民族言語学の発展に大きな影響を与えました。言語が多様性を持つこと、そしてそれぞれの言語が独自の文化や歴史を反映しているという彼の考え方は、それぞれの言語を尊重し、その多様性を理解しようとする姿勢を育むことに貢献しました。