## ブローデルの地中海の思考の枠組み
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地理的決定論
ブローデルは、地中海世界を理解する上で地理が重要な役割を果たすと考えました。彼は、山や海などの自然環境が、人々の生活様式、経済活動、文化、歴史の展開に大きな影響を与えてきたと主張しました。地中海は、その穏やかな気候、航海に適した条件、島嶼や半島が点在する複雑な地形により、独特の歴史を刻んできました。
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長期持続性(ロングデュレ)
ブローデルは、歴史を捉える上で、短期的変化ではなく、長期間にわたる持続性(ロングデュレ)に注目しました。彼は、地中海世界には、気候や地理条件によって規定された、根強く持続する構造(例:農業形態、交易パターン)が存在すると考えました。 これらの構造は、政治的な変化や戦争など、短期的出来事の影響を受けながらも、長期にわたって地中海世界を規定する基盤となったのです。
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多元的な時間
ブローデルは、歴史を単一の時間軸で捉えるのではなく、異なる速度で変化する複数の時間軸からなるものだと考えました。 彼は、歴史を以下の3つの時間層に分類しました。
* **地理的時間(longue durée)**: ほぼ不変の地形的特徴、気候など、非常にゆっくりと変化する時間。
* **社会的時間(moyenne durée)**: 経済構造、社会制度、文化など、数十年から数世紀かけて変化する時間。
* **政治的時間(histoire événementielle)**: 政治的事件、戦争、革命など、数年単位で起こる短期的変化。
ブローデルは、地中海史を理解するためには、これらの異なる時間軸を相互に関連づけて分析することが重要だと考えました。
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全体史
ブローデルは、政治史を中心とした従来の歴史学に対して、経済、社会、文化、地理など、様々な側面を統合的に扱う「全体史」を提唱しました。彼は、地中海をひとつの歴史的空間として捉え、その多様な側面を総合的に分析することで、より深い歴史理解が可能になると考えました。
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比較史
ブローデルは、地中海世界を他の地域と比較することによって、その独自性と普遍性を明らかにしようとしました。彼は、地中海世界が、西洋と東洋、キリスト教世界とイスラム世界を繋ぐ十字路に位置し、様々な文化が交流する場であったことに注目しました。
これらの思考の枠組みを用いることで、ブローデルは地中海を単なる地理的領域としてではなく、独自の文明を持つ歴史的空間として描き出すことに成功しました。