## ブレヒトの三文オペラと時間
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時間表現の二重性
「三文オペラ」の時間表現は、一見単純なようでいて、実際には複雑な二重構造を持っています。
劇中では具体的な日付や年号がほとんど示されず、「昨日」「明日」「一週間後」といった曖昧な時間表現が多用されます。これは、物語が特定の時代や社会に限定されない普遍性を持ち、いつでもどこでも起こりうる出来事として観客に認識させる効果を狙っています。
一方、「三文オペラ」の創作背景や劇中の社会風刺には、1920年代後半のドイツ、ヴァイマール共和国末期の不安定な社会状況が色濃く反映されています。第一次世界大戦後の経済混乱、貧富の格差拡大、政治の腐敗といった同時代の問題を、風刺的に描き出しています。
このように、「三文オペラ」の時間表現は、普遍性と同時性という二重の側面を併せ持っています。
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時間の短縮と省略
「三文オペラ」では、時間の流れが意図的に操作され、短縮や省略が頻繁に用いられています。
例えば、マックヒースとポリーが恋に落ち、結婚式を挙げるまでがわずか数時間の出来事として描かれます。また、マックヒースが逮捕され、処刑台に引き立てられるまでの過程も、非常に短い時間で展開されます。
このような時間の短縮や省略は、物語のテンポを速め、観客を劇世界に引き込む効果があります。また、現実の社会における不条理さや不合理さを強調する効果も持っています。
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歌による時間操作
「三文オペラ」の特徴の一つである「ゾン
ク」と呼ばれる歌は、物語の時間操作に重要な役割を果たしています。
劇中の歌は、しばしば物語の時間を停止させ、登場人物の心情や社会に対する批評を歌い上げるために用いられます。例えば、マックヒースが歌う「バラード」は、彼の犯罪者としての生き様や社会への反骨精神を表現しています。
また、歌は時間の流れを加速させ、場面転換をスムーズに行う効果も持っています。例えば、幕間には歌が挿入され、次の場面への橋渡しをしています。
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時間と社会批判
ブレヒトは、「三文オペラ」において時間表現を通して、資本主義社会の時間に対する支配を批判しています。
劇中では、金銭が時間の流れを支配し、人々の行動を規定している様子が描かれています。例えば、マックヒースは、金銭によって警察を買収し、逮捕を免れようとします。また、娼婦たちは、時間単位で客を取ることによって生計を立てています。
ブレヒトは、このような資本主義社会における時間の支配を批判し、人間らしい時間の使い方を取り戻すことの重要性を訴えかけています。