## ブルクハルトのイタリア・ルネサンスの文化の案内
ヤコブ・ブルクハルト(1818-1897)は、その記念碑的作品「イタリア・ルネサンスの文化」の中で、14世紀から16世紀にかけてイタリアで起こった変革の時代を鮮やかに描き出しました。
彼はこの時代を、中世の暗黒時代から抜け出し、古代ギリシャ・ローマの文化を復興させ、人間の可能性を再発見した時代として捉えました。本書は、政治史や戦争史ではなく、芸術、文学、哲学、社会生活といった文化史に焦点を当てている点が画期的でした。
ブルクハルトは、ルネサンスを特徴づける三つの主要な要素を提示しました。
まず、「個性の自覚」です。中世の集団主義的な社会から脱却し、個人が独自の才能や能力を自覚し、それを自由に表現するようになったと彼は主張しました。これは、芸術家たちが作品に署名するようになり、自画像を描くようになったことなどからもうかがえます。
第二に、「世俗的な快楽の肯定」です。
中世では禁欲主義が支配的でしたが、ルネサンス期の人々は、現世の美しさや喜びを積極的に享受するようになりました。豪華な宮殿を建設し、華やかな衣装を身につけ、宴会や舞踏会を楽しむようになったのです。
第三に、「古代への熱狂」です。
ルネサンス期の人々は、古代ギリシャ・ローマの文化に深い憧憬を抱き、その古典的な様式や思想を復興させようとしました。古代の文献を収集し、研究し、それを基盤として新しい芸術や文学を生み出していったのです。
ブルクハルトは、イタリアの都市国家が、この文化的な変革の中心地であったと主張しました。
特に、フィレンツェ、ヴェネツィア、ローマといった都市は、経済的な繁栄を背景に、芸術家や思想家たちを惹きつけ、彼らに創作活動の場を提供しました。また、メディチ家のようなパトロンの存在も、ルネサンス文化の開花に大きく貢献しました。
ブルクハルトの「イタリア・ルネサンスの文化」は、出版当時から大きな反響を呼び、ルネサンス研究の古典として、今日でも広く読まれています。
ただし、そのロマン主義的な歴史観や、イタリア中心主義的な視点は、現代の研究者からは批判されることもあります。