## ブルクハルトのイタリア・ルネサンスの文化の対称性
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ブルクハルトにおける「対称性」概念の扱い
ブルクハルトの主著『イタリア・ルネサンスの文化』において、「対称性」という単語が頻繁に登場するわけではありません。彼が作品内で用いる主要な概念は、「個人主義」「近代精神の開花」「ルネサンス的人間」などであり、「対称性」はその背後にある構造や原理を説明する際に間接的に示唆される要素の一つと言えます。
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ルネサンス文化における調和と均衡
ブルクハルトは、ルネサンス文化を特徴づける要素として、中世とは異なる新しい精神の誕生を強調しました。そして、この新しい精神は、人間とその周りの世界に対するより自由で、多面的かつ均衡のとれた視点を育むものでした。
例えば、絵画や彫刻においては、宗教的主題が中心であった中世とは異なり、人間や自然がより写実的かつ理想的に表現されるようになりました。これは、神中心的な世界観から人間中心的な世界観への転換を示すものであり、ブルクハルトはこれを「近代精神の開花」と捉えました。
また、ルネサンス期には、古代ギリシャ・ローマ文化への関心が高まり、その影響を受けて、芸術作品や建築物には、均整のとれた美しさ、調和、そして秩序が重視されるようになりました。
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個人と社会、精神と肉体の調和
ブルクハルトは、「ルネサンス的人間」の特徴として、多才で行動力に富み、精神と肉体の両面において優れた能力を発揮する理想的な人間像を提示しました。
当時の芸術家や思想家は、人間を「小宇宙」と捉え、自然の一部であると同時に、理性と意志によって世界を理解し、創造する能力を持つ存在だと考えました。
このような人間観は、中世の禁欲主義的な人間観とは対照的なものであり、人間存在のあらゆる側面を肯定的に捉えようとする、ルネサンス期特有の精神を表しています。
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対称性の概念が暗示するもの
ブルクハルトは、「対称性」という言葉を明示的に用いて論を展開しているわけではありませんが、彼の描くルネサンス文化像全体を貫くテーマとして、「調和」「均衡」「統合」といった概念を挙げることができます。そして、これらの概念は、ルネサンス期の人間観、世界観、そして芸術観における多様性と統一性の共存、精神と肉体の調和、個人と社会のバランスといった、ある種の「対称性」を暗示するものと言えるでしょう。