ブルクハルトのイタリア・ルネサンスの文化の価値
ブルクハルトの画期的著作
ヤコブ・ブルクハルトの『イタリア・ルネサンスの文化』(Die Kultur der Renaissance in Italien、1860年)は、ルネサンスという時代とその精神に対する認識を大きく変えた画期的な著作として、出版以来、西洋史研究において重要な位置を占めてきました。
「近代」の発見
ブルクハルトは、本書において、14世紀から16世紀にかけてイタリアで花開いた文化現象を「ルネサンス」という一つの時代概念で捉え、中世とは異なる「近代」の萌芽を見出しました。彼は、ルネサンス期の人々が、古代ギリシャ・ローマ文化を復興させることを通じて、人間中心主義、個人主義、合理主義といった、近代社会を特徴付ける価値観を育んでいったと主張しました。
国家と個人の対比
ブルクハルトは、イタリア・ルネサンスを、個人が国家や教会の束縛から解放され、自由な精神に基づいて活動した時代として描いています。彼は、フィレンツェ、ヴェネツィア、ローマといった都市国家が、経済的な繁栄を背景に、芸術家や思想家たちに活躍の場を提供したことを指摘し、その結果、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、マキャベリといった、傑出した才能を持つ「万能人」が数多く輩出されたと論じました。
美術史との関連
美術史家でもあったブルクハルトは、ルネサンス期の絵画、彫刻、建築を詳細に分析し、そこに見られる写実性、遠近法、人体表現などを、中世美術からの脱却と、古代美術の復興の証左として高く評価しました。彼は、ルネサンス芸術が、人間の身体や自然の美をありのままに表現することによって、人間の尊厳と自由を謳歌したと主張しました。
その後の研究への影響
ブルクハルトの『イタリア・ルネサンスの文化』は、その後のルネサンス研究に多大な影響を与え、多くの歴史家、美術史家、思想家がこの著作を批判的に継承しながら、ルネサンスという時代の解釈を深化させてきました。