フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学を読んだ後に読むべき本
マルティン・ハイデガー著 存在と時間
フッサールの『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』を読破した後に挑むべき一冊として、マルティン・ハイデガーの主著『存在と時間』を挙げることができます。 フッサールが提起した「近代の危機」という問題意識を共有しつつ、ハイデガーは独自の思考の道を切り開き、存在論を現代において新たに問うことを試みました。
フッサールは、近代科学の隆盛がもたらした客観主義や価値相対主義といった問題点を鋭く指摘し、それらに対抗しうるものとして、人間の意識体験そのものを対象とする「超越論的現象学」を提唱しました。 彼は、意識は常に「何か」を意識するという構造、すなわち「志向性」を持つことを明らかにし、客観的な世界は、この意識の志向性を通して初めて成立するということを主張しました。
ハイデガーは、フッサールのこの超越論的現象学を出発点としながらも、その射程をさらに拡大しようと試みます。 彼は、フッサールが「意識」という出発点から存在の問題にアプローチしたのに対し、意識よりも根源的な「現存在」という存在様式に焦点を当てました。 現存在とは、常に世界の中に「投げ出されて」おり、自分の存在の意味を問い続ける存在者としての、人間を指します。
ハイデガーは、現存在が世界内存在として、不安や死といった存在論的な問題と常に格闘していることを明らかにすることで、伝統的な存在論を乗り越えようとしたのです。 『存在と時間』は難解な哲学書として知られていますが、フッサールの問題意識を継承しつつ、独自の思考を展開したハイデガーの思想に触れることで、西洋哲学の深淵へとさらに深く分け入ることができるでしょう。