## フッサールの「純粋現象学および現象学的哲学の諸問題」の思想的背景
###
ブレンターノの記述心理学と意図性の概念
フッサールは、ウィーン大学でフランツ・ブレンターノに師事し、大きな影響を受けました。特に、ブレンターノの記述心理学は、フッサールの現象学の出発点となりました。ブレンターノは、心理学を経験的心理学と記述的心理学に分け、後者を重視しました。記述的心理学は、内観によって意識現象をありのままに記述することを目指すものであり、これはフッサールの現象学的方法の基礎となりました。
また、ブレンターノの提唱した「意図性」の概念も、フッサールの現象学において重要な役割を果たしています。ブレンターノは、意識は常に何かに「向かう」ものであるとし、この意識の指向性を「意図性」と呼びました。フッサールは、この意図性の概念を発展させ、意識と対象との関係を分析する上で中心的な概念としました。
###
数学と論理学の影響:厳密な学問への志向
フッサールは、もともと数学を専攻しており、その経験は彼の哲学に大きな影響を与えています。特に、数学における厳密性や明晰性への志向は、フッサールの現象学においても重要な要素となっています。フッサールは、哲学を他の科学と同様に厳密な学問にすることを目指し、そのために現象学という新しい方法を開発しました。
また、フッサールは、ゴットロープ・フレーゲなどの論理学者からも影響を受けています。特に、フレーゲの言語哲学は、フッサールの現象学における言語の役割についての考察に影響を与えています。フッサールは、言語が意識と対象との関係を媒介する重要な役割を果たしていることを認識し、言語分析を通して意識の構造を明らかにしようとしました。
###
当時の哲学への批判:心理主義と自然主義
フッサールの現象学は、当時の哲学に対する批判から生まれました。特に、フッサールは、心理主義と自然主義を批判しました。心理主義は、論理学や数学などの規範的な学問を心理学に還元しようとする立場です。フッサールは、心理主義は論理学や数学の客観性や必然性を説明できないと批判しました。
また、自然主義は、自然科学の方法を哲学や人文科学にも適用しようとする立場です。フッサールは、自然主義は人間の意識や文化などの精神的な現象を適切に扱うことができないと批判しました。フッサールは、これらの批判を踏まえ、人間の意識や経験を出発点とする新しい哲学を構築しようとしました。それが現象学です。