## フィリップスの政治の論理の力
政治的景気循環論への批判
A.W. フィリップスが1958年に発表した論文「The Relation between Unemployment and the Rate of Change of Money Wage Rates in the United Kingdom, 1861–1957」で提示したフィリップス曲線は、インフレーションと失業率の間には安定的なトレードオフの関係が存在することを示唆し、マクロ経済学、特にケインズ主義経済学に大きな影響を与えました。
しかし、1970年代に入ると、インフレーションと失業率が共に上昇するスタグフレーションが発生し、フィリップス曲線の妥当性に疑問が投げかけられました。ミルトン・フリードマンやエドマンド・フェルプスは、経済主体が期待を形成することを考慮していないフィリップス曲線の限界を指摘し、長期的にはインフレーションと失業率の間にトレードオフは存在しないと主張しました。
合理的期待形成学派への影響
フィリップスの研究は、経済主体の期待が経済政策の効果に影響を与えるという重要な視点を提供しました。これは、後年の合理的期待形成学派の登場に大きな影響を与えました。合理的期待形成学派は、経済主体は過去の経験や入手可能な情報を合理的に利用して将来の経済状況を予測し、それに基づいて行動すると仮定しています。
フィリップス曲線への批判は、経済モデルにおいて期待の役割を明確に考慮することの重要性を示しました。合理的期待形成学派は、経済主体の期待形成をモデルに組み込むことで、より現実的な経済分析が可能になると主張しました。
政策論争への影響
フィリップス曲線の登場とその後の批判は、経済政策をめぐる論争にも大きな影響を与えました。フィリップス曲線は、政府が財政政策や金融政策を用いることで、インフレーションと失業率をコントロールできる可能性を示唆していました。しかし、合理的期待形成学派は、政府の政策は経済主体の期待によって影響を受けるため、その効果は限定的であると主張しました。
フィリップスの研究は、経済学における実証分析の重要性を再認識させました。フィリップスは、膨大な歴史データを用いてインフレーションと失業率の関係を分析しました。これは、経済理論を検証し、政策提言を行う上で、実証的な証拠が不可欠であることを示す好例となりました。