ピンカーの暴力の人類史を読む
ピンカーの主張
スティーブン・ピンカーは、2011年に出版された著書「暴力の人類史」の中で、人類の歴史を通じて暴力が減少してきたと主張しています。彼は、先史時代から現代に至るまで、戦争、殺人、拷問、虐待、残虐行為などのあらゆる形態の暴力が、長期的に見ると減少傾向にあるという膨大な統計データや歴史的事実を提示しています。
根拠となるデータ
ピンカーはこの主張を裏付けるために、考古学、人類学、歴史学、心理学、社会学など、多岐にわたる分野の研究成果を引用しています。例えば、狩猟採集社会における殺人の発生率は、現代国家におけるそれよりもはるかに高かったことが、考古学的証拠から示唆されています。また、中世ヨーロッパでは、戦争による死者数は人口比で現代よりも多かったことが歴史的に明らかになっています。
暴力減少の要因
ピンカーは、暴力の減少には、国家の形成、貿易の発展、識字率の向上、女性の社会進出、理性と共感の文化の発達など、複数の要因が複合的に作用していると分析しています。彼は、国家が法と秩序を確立することで私的な暴力を抑制し、貿易が人々を相互依存の関係に置くことで紛争のコストを高め、教育が人々の視野を広げて偏見を減らし、女性の社会進出が社会全体を平和的な方向に導くと主張しています。
批判と議論
ピンカーの主張は、多くの支持を集める一方で、批判や議論も巻き起こしています。一部の批評家は、彼のデータの解釈や歴史的事実の選択に偏りがあること、現代社会における暴力の形態の変化を十分に考慮していないことなどを指摘しています。また、彼の主張が楽観主義に偏りすぎており、現代社会が抱える暴力の問題を過小評価しているという批判もあります。