ピレンヌのベルギー史の選択
ピレンヌとベルギー史
アンリ・ピレンヌ（1862-1935）は、ベルギーを代表する歴史家の一人であり、中世ヨーロッパ史、特に経済史と都市史の分野で多大な貢献をしました。彼は、従来の政治史や戦争史中心の見方から脱却し、経済活動や社会構造に焦点を当てた新しい歴史叙述を試みました。
選択の背景
ピレンヌは、ベルギーという国家が比較的新しい歴史を持つことに強い関心を抱いていました。1830年にオランダから独立したベルギーは、それ以前は様々な支配者に翻弄され、統一国家としての経験がほとんどありませんでした。ピレンヌは、この特殊な歴史的背景を持つベルギーを研究対象とすることで、ヨーロッパ史における国家形成や国民意識の形成過程を解明しようと試みました。
具体的な研究テーマ
ピレンヌは、ベルギー史研究において、以下のテーマに特に重点を置きました。
* **都市の発展と商業活動:** ピレンヌは、中世後期におけるフランドル地方の都市、特にブルージュやゲントの繁栄に注目し、それが西ヨーロッパ経済の重心を地中海から北海沿岸に移す上で重要な役割を果たしたと論じました。彼は、都市の自治権の獲得、商業ギルドの発展、国際的な交易ネットワークの形成などを詳細に分析しました。
* **封建制度と国家形成:** ピレンヌは、中世ヨーロッパにおける封建制度の構造と変遷を分析し、それが国家形成に与えた影響を考察しました。彼は、ベルギーを含む低地諸国が、フランスやドイツのような強力な中央集権国家を形成できなかった理由を、封建領主の自立性と都市の経済力に求めました。
* **国民意識の形成:** ピレンヌは、ベルギー人が独自の国民意識を形成する過程を、歴史的、文化的、言語的な側面から分析しました。彼は、共通の言語や文化を持たないベルギー人が、どのようにして国家としてのまとまりを形成していったのかを明らかにしようと努めました。
ピレンヌの功績と限界
ピレンヌの研究は、ベルギー史研究に新たな視点を提供し、その後の歴史学に多大な影響を与えました。彼は、従来の政治史中心の見方から脱却し、経済活動や社会構造に焦点を当てた新しい歴史叙述を試み、多くの歴史家に影響を与えました。しかし、彼の研究は、史料批判の不足や過度の一般化などの問題点も指摘されています。また、彼の国民主義的な歴史観は、現代の視点からは批判的に検討されるべき点も含まれています.