ピレンヌのベルギー史と言語
ピレンヌとベルギー史研究
アンリ・ピレンヌ(1862-1935)は、ベルギーを代表する歴史家の一人であり、特に中世ヨーロッパ史、経済史、ベルギー史の分野において多大な業績を残しました。彼は綿密な史料批判に基づいた実証主義的な歴史研究を重視し、従来の通説を覆すような画期的な学説を数多く提唱しました。
「ベルギー史」における言語問題の扱い
ピレンヌの主著の一つである『ベルギー史』(Histoire de Belgique)は、7世紀に及ぶベルギーの歴史を政治、経済、社会、文化など多角的な視点から叙述した monumental な著作です。彼はこの著作において、ベルギーという国家の形成過程を、ローマ帝国の支配、ゲルマン民族の大移動、フランク王国の分裂、ブルゴーニュ公国の台頭といった西ヨーロッパ史における大きな転換点と関連付けながら分析しました。
ピレンヌは『ベルギー史』の中で、ベルギーという地域における言語の多様性についても言及しています。彼は、ローマ帝国時代にはガリア語系の言語が話されていた地域に、ゲルマン民族の侵入によってゲルマン語系の言語が持ち込まれ、その後長い時間をかけてフランス語とオランダ語という二つの言語圏が形成されていった歴史的経緯を概説しました。
しかしながら、ピレンヌは言語問題をベルギー史の主要な構成要素として大きく取り上げることはありませんでした。彼はむしろ、ベルギーという地域における政治的統合と経済的発展、そして文化的な共通性を重視し、言語の違いを超えたベルギー人としてのアイデンティティの形成を強調しました。