パムクの私の名は赤を読む前に
オスマン帝国時代のミニ知識を仕入れておこう
舞台は16世紀末のオスマン帝国のイスタンブール。イスラム教を信仰するこの帝国では、絵画は偶像崇拝にあたるとされ、宗教画以外の絵画はあまり発展しませんでした。しかし、その一方で、細密画や装飾写本といった芸術が発展し、宮廷文化を華やかに彩りました。
小説では、当時のイスタンブールの人々の暮らしや文化、習慣が生き生きと描かれています。特に、コーヒーハウスでの人々の会話や、市場での活気ある様子は、読者を当時の世界へと誘ってくれます。
東西文化の狭間で揺れるイスタンブールに思いを馳せよう
当時のイスタンブールは、東西文化の交差点として栄えていました。東からはペルシャやインドの文化が、西からはヨーロッパの文化が流入し、独特の文化を形成していました。小説では、そうした東西文化の交流と対立が、登場人物たちの心情や行動に微妙な影を落としています。
例えば、西洋から伝わった写実的な絵画技法と、伝統的なイスラムの細密画の技法との間で、画家たちは葛藤を抱えます。また、西洋的な価値観と、伝統的なイスラムの価値観との間で、人々は心の揺り動きを感じています。
ミステリー小説の要素も楽しんでみよう
この小説は、オスマン帝国時代のイスタンブールを舞台にしたミステリー小説でもあります。物語は、細密画工房で起きた殺人事件を発端に、複雑に絡み合った人間関係や陰謀が明らかになっていきます。
読者は、主人公である「黒」の視点を通して、事件の謎を追っていくことになります。「黒」は、12年間故郷を離れていたため、イスタンブールの街や人々の変化に戸惑いながらも、事件の真相に近づいていきます。