## ハーバーマスの後期資本主義における正当化の諸問題の価値
ハーバーマスの「後期資本主義における正当化の諸問題」は、現代社会における政治的正当性の危機を分析した重要な著作です。
ハーバーマスは、現代資本主義社会が、経済的効率性や物質的豊かさの追求によって、人々の間のコミュニケーションと相互理解を阻害し、政治的な意思決定の正当性を危機に陥れていると主張します。
本書の価値は、以下の3点に集約されます。
1. **システムと生活世界の分離という概念:** ハーバーマスは、資本主義社会を「システム」と「生活世界」という二つの領域に分けて分析します。「システム」は、経済や政治といった社会の機能システムを指し、「生活世界」は、人々の日常生活におけるコミュニケーションや文化、価値観を共有する場を指します。彼は、資本主義の発展に伴い、「システム」が「生活世界」を侵食し、人々のコミュニケーションを疎外し、政治的な意思決定を歪めていると批判します。
2. **コミュニケーション的行為という概念:** ハーバーマスは、正当な社会秩序は、人々の自由で平等なコミュニケーションを通じてのみ達成されると考えます。彼は、「コミュニケーション的行為」という概念を用いて、人々が理性的な議論と相互理解を通じて合意形成を目指す理想的なコミュニケーションの姿を描きます。
3. **現代社会における正当化の危機への分析:** ハーバーマスは、現代資本主義社会においては、「システム」の論理が「生活世界」を支配し、人々のコミュニケーションが阻害されているため、「コミュニケーション的行為」による正当化が困難になっていると指摘します。彼は、この状況を「正当化の危機」と呼び、現代社会が抱える根本的な問題として捉えています。
これらの概念を用いることで、ハーバーマスは、現代社会における政治的なアパシーや社会的な統合の危機、さらには環境問題やグローバリゼーションといった現代社会の諸問題を、正当化の危機という視点から分析することを可能にしました。
本書は、現代社会の抱える問題を鋭く分析し、その解決策を探るための重要な視点を提供してくれるという点で、現代社会論、政治哲学、コミュニケーション論といった様々な分野において高い評価を受けています。