ハーバーマスの後期資本主義における正当化の諸問題と人間
ハーバーマスにおける「後期資本主義」
ユルゲン・ハーバーマスは、現代社会を「後期資本主義」と捉えています。これは、資本主義が単なる経済体制を超えて、文化、政治、社会のあらゆる領域を規定するようになった状態を指します。後期資本主義社会は、高度な技術発展、消費主義の拡大、福祉国家の成立などを特徴とし、古典的なマルクス主義が想定したような経済的危機によって崩壊することはありませんでした。
システムと生活世界
ハーバーマスは、後期資本主義社会を「システム」と「生活世界」という二つの領域に区分して分析します。「システム」は、経済や国家といった社会の機能システムを指し、効率性や合理性を重視して運営されます。「生活世界」は、家族や友人、地域社会など、人々の日常生活が営まれる領域を指し、相互理解や共感、価値観の共有などが重視されます。
正当化の危機
ハーバーマスによれば、後期資本主義社会では「システム」が肥大化し、「生活世界」を侵食していくことで、社会の正当化が危機に瀕しています。「システム」は、その効率性や合理性を追求するために、人々の価値観や生活様式を無視して、自己の論理に従って拡大していきます。その結果、人々の間におけるコミュニケーションが阻害され、社会の統合が困難になります。これが、ハーバーマスが指摘する「正当化の危機」です。
コミュニケーション的理性
ハーバーマスは、「正当化の危機」を克服するために、「コミュニケーション的理性」の重要性を強調します。「コミュニケーション的理性」とは、権力や暴力ではなく、自由で平等な対話を通じて、相互理解と合意形成を目指す理性のことです。ハーバーマスは、人々が「コミュニケーション的理性」に基づいて対話し、共通の価値観や規範を形成していくことによってのみ、正当な社会秩序を構築できると考えます。