## ハッブルの銀河の彼方の思想的背景
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**1. 20世紀初頭の天文学と「星雲」論争**
20世紀初頭、天文学の世界では「渦巻星雲」の正体を巡る論争が繰り広げられていました。渦巻星雲とは、渦を巻いたようなぼんやりとした光の姿を捉えた天体のことです。当時の天文学者たちは、これらの天体が私たちの天の川銀河系の中にあるのか、それとも銀河系外の遥か彼方にある独立した銀河なのかで意見が分かれました。
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**2. ハッブル以前の宇宙観:島宇宙仮説**
1755年、ドイツの哲学者イマヌエル・カントは、天の川銀河のような星の集団が宇宙には多数存在し、それぞれが「島宇宙」として互いに離れて存在しているという「島宇宙仮説」を提唱しました。この考え方は当時革新的でしたが、観測技術の限界から証明することができず、長らく議論の的となっていました。
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**3. ハッブルの登場とアンドロメダ銀河の観測**
1920年代、エドウィン・ハッブルは、当時世界最大の望遠鏡であったウィルソン山天文台の100インチ望遠鏡を用いて、アンドロメダ銀河(当時はアンドロメダ星雲と呼ばれていました)の観測を行いました。そして、その中に「セファイド型変光星」と呼ばれるタイプの星を発見します。
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**4. セファイド型変光星と宇宙の距離梯子**
セファイド型変光星は、その変光周期と真の明るさに一定の関係があることが知られており、地球からの距離を測定するのに役立つ「標準光源」として利用できます。ハッブルはこの性質を利用し、アンドロメダ銀河までの距離を測定した結果、それが私たちの天の川銀河のはるか彼方にあることを明らかにしました。
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**5. ハッブルの法則と膨張する宇宙**
さらにハッブルは、様々な銀河の距離と後退速度を測定し、遠方の銀河ほど速い速度で遠ざかっているという関係を発見しました。これが「ハッブルの法則」です。この発見は、宇宙が膨張していることを示唆しており、当時の静的な宇宙観に大きな変革をもたらしました。