## ハクスリーのすばらしい新世界と時間
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時間に対する意識の欠如
『すばらしい新世界』の住人たちは、過去の歴史や伝統についてほとんど知識を持ちません。フォード紀元という、ヘンリー・フォードがモデルTの大量生産を開始した年を元年とする暦を採用し、それ以前の歴史は「過去の暗黒時代」として軽視されています。
人々は歴史を学ぶことよりも、快楽を追求することに重きを置いています。ソーマという薬物によって、いつでも簡単に快感を得ることができ、
また、死さえも恐れるべきものではなく、むしろ社会から効率的に排除されるべきものと捉えられています。
このように、過去・現在・未来という時間の流れに対する意識は希薄で、刹那的な快楽に支配された生活を送っています。
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時間と老いの排除
『すばらしい新世界』では、科学技術によって老化が抑制され、人々は若々しい肉体を保ったまま、寿命を全うします。
死は、老化による衰弱ではなく、ある日突然訪れるものとして描かれています。
老いという概念が存在しないため、時間経過による肉体的・精神的な変化を経験することなく、人生の有限性を感じることなく生きています。
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時間操作による社会の安定化
『すばらしい新世界』では、胎児の段階から成長速度や能力が厳密に管理され、社会に必要とされる人材が計画的に生産されます。
人々は、生まれながらにして決められた役割をこなし、社会に貢献することが当然だと信じ込まされています。
このような管理社会において、時間という概念は、個人の自由や自律を制限するためのツールとして機能しています。
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時間とアイデンティティの喪失
『すばらしい新世界』の住人たちは、時間に対する意識の欠如、老いの排除、時間操作による社会の安定化といった要素によって、
個としてのアイデンティティを確立することが困難な状況に置かれています。
過去を振り返り、未来を展望することで形成されるはずのアイデンティティは、
刹那的な快楽と、社会に組み込まれた存在意義によって覆い隠されています。