## ハイゼンベルクの現代物理学の思想とアートとの関係
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ハイゼンベルクと「部分と全体」
ヴェルナー・ハイゼンベルクは、20世紀を代表する物理学者の一人であり、量子力学の創始者の一人として知られています。彼は、1958年に出版された著書「部分と全体」の中で、自身の物理学研究の歩みと、その過程で出会った様々な物理学者たちとの対話を回想しています。この本は、単なる科学的な解説書ではなく、むしろ哲学的な考察や芸術論、社会問題にも触れた、幅広い読者層を対象とした作品となっています。
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現代物理学と芸術の類似性
ハイゼンベルクは、「部分と全体」の中で、現代物理学と芸術、特に抽象絵画との間に興味深い類似性を見出しています。彼は、原子物理学の発展によって、それまでの古典物理学では捉えきれなかったミクロの世界の法則が明らかになってきたことを指摘します。そして、このミクロの世界では、物質の振る舞いが確率的にしか決定されず、また、観測行為が観測対象に影響を与えるという、人間の直感とはかけ離れた現象が起こることを解説しています。
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抽象絵画との共通点
ハイゼンベルクは、このような現代物理学の描像が、20世紀初頭に生まれた抽象絵画の表現方法と共通点を持つと論じています。彼は、カンディンスキーやクレーなどの抽象画家たちが、客観的な現実世界の再現ではなく、色彩や形態そのものの表現を通して、人間の内的世界や感情を表現しようと試みたことを指摘します。そして、これはまさに、原子物理学が、感覚的に捉えられないミクロの世界の法則を、数学的な抽象化を通して表現しようとする試みと重なると考えました。
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「部分と全体」における考察
ハイゼンベルクは、「部分と全体」の中で、現代物理学と抽象絵画の類似性を論じるだけでなく、科学と芸術という一見異なるように思える二つの分野が、実は人間の知性と感性が織りなす創造的な営みとして、根底で深く結びついていることを示唆しています。