## ノージックのアナーキー・国家・ユートピアの批評
### ノージックの権利論に対する批判
ノージックは、個人の権利を極めて重視し、国家の介入を最小限に抑えるべきだと主張します。しかし、この権利論に対しては、以下のようないくつかの批判が挙げられます。
* **権利の根拠が不明確:** ノージックは、個人が生まれながらにして一定の権利を有すると主張しますが、その根拠を明確に示していません。
* **権利の衝突への対応が不十分:** 現実社会では、個人の権利が互いに衝突することがありますが、ノージックはそのような場合にどのように対処すべきかについて明確な指針を示していません。
* **消極的自由の重視:** ノージックは、他者の干渉を受けない自由(消極的自由)を重視するあまり、経済的不平等や社会的不正義を是正するための国家の積極的な役割を軽視しています。
### 最小国家論に対する批判
ノージックは、個人の権利を保護するために最小限の機能を持つ国家(最小国家)の存在を認めています。しかし、この最小国家論に対しても、以下のような批判が挙げられます。
* **最小国家への移行の可能性:** ノージックは、アナーキー状態から最小国家への自然発生的な移行の可能性を論じますが、その過程は現実的とは言えず、理論上の仮説に過ぎないという批判があります。
* **最小国家の維持可能性:** 仮に最小国家が成立したとしても、市場メカニズムだけでは、公共財の供給や外部経済効果への対処など、最小国家の機能を維持するために必要な財源や制度を確保することが難しいという指摘があります。
* **自由放任主義への傾倒:** 最小国家論は、結果的に経済的な自由放任主義を正当化するものであり、社会福祉や再分配政策を軽視する傾向があるという批判があります。
### ユートピア論に対する批判
ノージックは、最小国家の下で、個人が自由に自分の価値観に基づいた共同体を形成するユートピアを構想しています。しかし、このユートピア論に対しても、以下のようないくつかの批判が挙げられます。
* **共同体間の不平等:** ノージックは、共同体間の自由な移動を認めていますが、経済力や社会的地位の高い人々がより良い共同体に集まり、共同体間の不平等が固定化する可能性があります。
* **弱者への配慮の欠如:** ノージックのユートピアでは、共同体への所属は個人の自由な選択に委ねられますが、経済的な困窮や社会的な排除によって、望まない共同体に留まらざるを得ない人々が出てくる可能性があります。
* **現実性の欠如:** ノージックのユートピアは、個人の理性や道徳性に過度に依存しており、現実の社会における複雑さや多様性を十分に考慮していないという批判があります。
これらの批判は、「アナーキー・国家・ユートピア」が発表された当時から様々な学者によって提起されてきました。ノージック自身もこれらの批判に対して反論を試みていますが、議論の決着はついておらず、現在もなお多くの研究者によって議論が続けられています。