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ノイマンの大衆国家と独裁の関連著作

ノイマンの大衆国家と独裁の関連著作

カール・シュミット「政治的なものの概念」

カール・シュミットの主著「政治的なものの概念」は、1932年に出版され、ナチス政権期のドイツで大きな影響力を持った政治思想書です。ノイマンの「大衆国家と独裁」と同様に、ワイマール共和国の政治的混乱と全体主義の台頭を背景に書かれた本書は、政治の本質を「敵と味方の区別」に求め、リベラリズムや議会制民主主義の限界を鋭く指摘しています。

シュミットは、政治における根本的な対立は、異なる価値観や意見の対立ではなく、「敵」と「味方」という実存的な対決であると主張します。議会制民主主義は、妥協と合意形成を通じて政治を行うシステムですが、シュミットは、このようなシステムは、根本的な対立が存在しない「均質な社会」においてのみ機能すると考えました。逆に、深刻な対立が存在する状況においては、国家の統一と安全を守るために、主権者が「非常事態」を宣言し、敵を排除する必要があると主張しました。

「政治的なものの概念」は、ノイマンの「大衆国家と独裁」と同様に、全体主義の台頭を背景に書かれたという点で共通しています。しかし、両者の立場は大きく異なります。ノイマンが全体主義の危険性を批判し、多元的な社会における民主主義の可能性を模索したのに対し、シュミットは、全体主義的な政治体制をある程度容認する立場をとっていました。

ハンナ・アーレント「全体主義の起源」

ハンナ・アーレントの「全体主義の起源」は、20世紀の全体主義体制を歴史的、政治思想的に分析した記念碑的な著作です。1951年に出版された本書は、ナチズムとスターリニズムという一見異なる二つの体制の共通点を探求し、全体主義という新しいタイプの政治体制の出現を説明しようと試みています。

アーレントは、全体主義を単なる恐怖政治や独裁政治とは異なる、まったく新しいタイプの政治体制として捉えました。彼女によれば、全体主義は、イデオロギー、全体主義運動、テロという三つの要素によって特徴付けられます。イデオロギーは、現実を無視した全体的な説明を提供することで、大衆の不満や不安を吸収し、運動に駆り立てる役割を果たします。全体主義運動は、既存の社会秩序を破壊し、新しい全体主義社会を建設することを目指します。そして、テロは、反対派を弾圧し、社会全体を恐怖で支配するための手段として用いられます。

アーレントは、全体主義の起源を探る中で、19世紀後半から20世紀初頭にかけてヨーロッパで進行した大衆社会化、帝国主義、反ユダヤ主義といった現象に注目しています。彼女は、これらの現象が相互に関連し合いながら、全体主義を生み出す土壌を形成したと分析しています。

アレクシス・ド・トクヴィル「アメリカのデモクラシー」

アレクシス・ド・トクヴィルの「アメリカのデモクラシー」は、1835年から1840年にかけて出版された、アメリカの政治制度と社会状況を分析した政治学の古典です。ノイマンの「大衆国家と独裁」よりも100年以上前に書かれた本書ですが、民主主義社会における大衆の政治参加と、それがもたらす可能性のある危険性について考察しており、ノイマンの議論との共通点を見出すことができます。

トクヴィルは、アメリカ社会における平等主義の進展に注目し、それが民主主義の発展に大きく貢献したと評価しました。一方で、彼は、平等主義が「多数者の専制」を生み出す可能性についても警告を発しています。多数者の専制とは、多数派の意見が常に正しいとされ、少数派の意見が抑圧される状況を指します。

トクヴィルは、アメリカの民主主義社会においても、多数者の専制の危険性が存在することを指摘し、それを防ぐための様々な制度的、文化的条件について考察しています。例えば、彼は、連邦制や司法権の独立、結社の自由などが、多数者の専制を抑制する効果を持つと論じています。

これらの著作は、いずれもノイマンの「大衆国家と独裁」が扱っているテーマである、大衆社会における民主主義の危機と全体主義の台頭という問題と深く関わっています。それぞれの著作は、異なる時代背景、異なる視点からこの問題にアプローチしていますが、現代社会においても重要な示唆を与えてくれるものです。

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