ニーチェの悲劇の誕生を読む前に
ニーチェの生涯と時代背景を知る
フリードリヒ・ニーチェは1844年、ドイツに生まれました。ルター派の牧師の家に生まれましたが、幼くして父を亡くし、敬虔なキリスト教徒の母親と妹、女性の親族に囲まれて育ちました。彼は優秀な学生であり、古典文献学を学び、弱冠24歳でバーゼル大学の古典文献学教授に就任しました。しかし、10年後には健康上の理由で辞職を余儀なくされます。その後は、著述活動に専念しますが、44歳で精神に異常をきたし、晩年を狂気の中で過ごしました。彼の生きた時代は、ドイツ統一、産業革命、科学技術の発展など、大きな変革の時代でした。こうした時代背景が、伝統的な価値観やキリスト教に対するニーチェの批判的な態度を形成する上で大きな影響を与えました。
ギリシャ悲劇とソクラテス以前の哲学に親しむ
本書の主題は、ギリシャ悲劇、特にギリシャ悲劇の傑作として知られるアイスキュロスやソフォクレスの作品から、どのようにして芸術が誕生したのかを考察することです。ニーチェは、ギリシャ悲劇が、アポロン的なものとディオニソス的なものという、相反する二つの衝動のせめぎ合いから生まれたと主張します。アポロン的なものは、理性、秩序、調和を象徴し、ディオニソス的なものは、本能、陶酔、混沌を象徴します。ニーチェは、この二つの衝動のせめぎ合いこそが、芸術を生み出す根源的な力であると考えました。
また、ニーチェは、ソクラテス以前の哲学者、特に自然哲学者たちの思想にも深く影響を受けています。タレス、アナクシマンドロス、ヘラクレイトスといった初期の哲学者たちは、神話や宗教に頼ることなく、自然を観察し、理性によって世界の根源や法則を解明しようとしました。ニーチェは、こうしたソクラテス以前の哲学者の態度に、現代社会におけるニヒリズム(すべての価値を否定する思想)を克服する鍵を見出そうとしたのです。
本書をより深く理解するためには、事前にギリシャ悲劇やソクラテス以前の哲学についてある程度の知識を身につけておくことが望ましいでしょう。
ニーチェの文体と大胆な比喩表現に備える
ニーチェは、難解なことで知られています。彼は、哲学的な概念を説明するために、比喩や詩的な表現、皮肉などを多用します。また、一つの文章が非常に長くなることもあり、読者は彼の思考の複雑な流れについていくことに苦労するかもしれません。さらに、ニーチェは、しばしば逆説的な表現を用い、読者を挑発します。
彼の真意を読み解くためには、注意深くテキストを読み込み、文脈を理解することが重要です。難しい箇所に出くわしたら、諦めずに何度も読み返してみましょう。辞書や解説書を活用するのも有効です。