## ニーチェの悲劇の誕生の周辺
出版
1872年、ニーチェ28歳のときに処女作として『悲劇の誕生』が出版されました。原題は”Die Geburt der Tragödie aus dem Geiste der Musik”(音楽の精神からの悲劇の誕生)でした。
内容
本書は古代ギリシャ悲劇を題材に、芸術と文化の起源、そして人間の根源的な衝動について考察した哲学書です。ニーチェは、ギリシャ悲劇においては、ディオニソス的なものとアポロン的なものの二つの原理がせめぎ合い、その緊張関係からこそ、芸術作品が、そして文化そのものが生み出されると主張しました。
ディオニソス的なものは、酒と陶酔の神ディオニソスに象徴される、生の混沌、陶酔、恍惚、非理性的な衝動などを表します。一方、アポロン的なものは、光明の神アポロンに象徴される、理性、秩序、調和、個体化、夢、芸術などを表します。
ニーチェは、ソクラテス以降の西洋文明を、ディオニソス的なものを抑圧し、アポロン的なものを過度に重視してきたと批判しました。そして、現代文化の衰退を克服するためには、再びディオニソス的なものを取り戻す必要があると主張しました。
反響
『悲劇の誕生』は、当時の学問的水準からすると、大胆な仮説や主観的な解釈が多く含まれており、古典文献学の権威であったウルフから痛烈な批判を受けました。 また、同僚の教養史家ブルクハルトからは好意的な評価を受けましたが、全体的には賛否両論で、ニーチェは学界から孤立することになりました。
影響
本書は、発表当時は大きな反響を得られませんでしたが、20世紀に入ってから、実存主義やポストモダニズムなどの思想潮流に大きな影響を与えました。 また、文学、音楽、美術など、様々な分野の芸術家たちにインスピレーションを与え続けています。