## ニーチェの悲劇の誕生の価値
価値 1：西洋思想の根源への鋭い洞察
「悲劇の誕生」は、西洋文化の根源を古代ギリシャの悲劇に見出し、その二重構造を分析することで、西洋思想の特質と問題点を鋭く洞察しています。
ニーチェは、古代ギリシャ悲劇においては、ディオニソス的なものとアポロン的なものという、相反する二つの原理がせめぎ合っており、その緊張関係こそがギリシャ文化の隆盛を支えていたと主張します。ディオニソス的なものは、陶酔や恍惚、生の根源的な力、個体性の消滅などを表し、アポロン的なものは、理性、秩序、美、個体性の確立などを象徴します。
価値 2：芸術の持つ文化形成力への着目
本書は、単なる芸術論を超えて、芸術が文化や社会に与える影響力に着目し、その重要性を説いています。
ニーチェは、古代ギリシャにおいて、悲劇が単なる娯楽ではなく、人々の生の苦悩を克服し、共同体における倫理や価値観を形成する上で重要な役割を果たしていたと論じています。そして、現代社会においても、芸術は人間存在の根源的な問題と向き合い、新たな価値観を創造していく力を持つと主張します。
価値 3：西洋近代文明への批判
「悲劇の誕生」は、当時の西洋近代文明が抱える問題点、特に理性主義の行き過ぎや芸術の衰退に対する痛烈な批判を展開しています。
ニーチェは、ソクラテス以降の西洋思想が理性や論理を過度に重視する一方、ディオニソス的な生の力や芸術の持つ非理性的で情動的な側面を軽視してきたと批判します。そして、このような西洋近代文明の偏りが、芸術の衰退だけでなく、人間の精神的な活力の低下をもたらしていると警鐘を鳴らしています。