ドワーキンの法の帝国の対極
法実証主義 – ドワーキンの「法の帝国」に対する対極的な視点
ドワーキンの「法の帝国」は、法の解釈において道徳的判断が不可欠であると主張する、解釈主義法理論の代表的な著作です。この立場は、法の解釈は既存の法規範や判例から論理的に導き出されるべきだとする法実証主義と対峙します。
法実証主義は、法と道徳を明確に区別し、法の妥当性は制定手続きの正当性や社会的な事実によってのみ保証されると考えます。代表的な論者として、ジョン・オースティンやH.L.A.ハートが挙げられます。
ジョン・オースティン – 命令としての法
オースティンは、主著『法理学講義』の中で、法を「主権者の命令」と定義しました。彼によれば、法は主権者によって発せられ、違反に対して制裁を伴う命令です。道徳的判断は法の解釈において考慮されるべきではなく、法の妥当性は主権者の権力にのみ依拠します。
H.L.A.ハート – 法体系としての法
ハートは、オースティンの命令説を批判し、法を「規則の体系」として捉えました。彼の主著『法の概念』では、法は一次規則(義務を課す規則)と二次規則(一次規則を制定、変更、適用するための規則)から構成されるとされます。ハートは、法の解釈において裁判官は裁量権を持つ場合があると認めつつも、基本的には既存の規則から論理的に導き出されるべきだと主張しました。
法実証主義は、法の解釈における客観性や予測可能性を重視し、道徳的判断の介入による法の不安定化を避けることを目指しています。これは、法の安定性や予測可能性を重視する立場から、ドワーキンの主張する道徳的判断の必要性とは対照的な見解と言えるでしょう。