## ドッブの価値と分配の諸理論を読む
古典派経済学における価値と分配の理論
ドッブは、本書の冒頭で、古典派経済学における価値と分配の理論について解説しています。彼は、アダム・スミス、リカード、マルサスといった経済学者たちの考え方を丁寧に紐解きながら、彼らがどのように価値の源泉を捉え、賃金、利潤、地代といった分配の決定要因を説明しようとしたのかを明らかにします。
古典派経済学においては、労働が価値の源泉として重視されていました。特に、リカードは、商品の価値はそれを生産するために必要な労働量によって決まるとする労働価値説を体系的に展開しました。また、分配に関しても、労働者が生活していくために必要な生活必需品の価格によって賃金が決定されるとする生存賃金説が唱えられました。
マルクスの経済学
ドッブは、マルクスの経済学を深く理解し、それを本書において詳細に分析しています。彼は、マルクスが古典派経済学を批判的に継承し、独自の価値と分配の理論を構築したことを強調します。
マルクスは、労働価値説をさらに発展させ、剰余価値論を展開しました。彼は、労働者が生産する価値と、労働者に対して支払われる賃金との差額を剰余価値と定義し、資本家の利潤はこの剰余価値から生み出されると主張しました。また、マルクスは、資本主義経済における分配関係は、階級闘争を通じて変化すると考えました。
新古典派経済学の登場と批判
ドッブは、19世紀後半に登場した新古典派経済学にも目を向けます。彼は、ジェボンズ、メンガー、ワルラスといった経済学者たちが、古典派経済学の労働価値説を否定し、限界効用理論に基づいて価値と分配の理論を再構築したことを指摘します。
新古典派経済学においては、商品の価値は、消費者がその商品から得られると期待する満足度、すなわち限界効用によって決まるとされます。また、分配に関しても、労働や資本といった生産要素の限界生産力に応じて賃金や利潤が決定されると考えられています。ドッブは、新古典派経済学の限界理論は、現実の経済現象を十分に説明できるものではないと批判しています。
20世紀の経済学における諸議論
ドッブは、20世紀に入ると、価値と分配をめぐる議論はさらに複雑化していくことを示唆します。彼は、ケインズ経済学の登場や、不完全競争理論の発展などを踏まえながら、現代の経済学における課題と展望を論じています。
特に、ケインズは、有効需要の不足が失業を生み出すという考え方を提示し、従来の経済学の枠組みを大きく変えました。また、不完全競争理論は、現実の市場においては完全競争が成立することはまれであり、企業は価格設定力を持つことを明らかにしました。ドッブは、これらの新しい理論が、価値と分配の問題を考える上で重要な視点を提供すると評価しています。