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ドッブの「価値と分配の諸理論」の思想的背景

## ドッブの「価値と分配の諸理論」の思想的背景

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ドッブの知的遍歴とマルクス経済学との出会い

モーリス・ドッブ(1900-1976)は、イギリスの経済学者であり、その生涯を通じてマルクス経済学の研究と発展に大きく貢献しました。ケンブリッジ大学で経済学を学んだドッブは、当初はアルフレッド・マーシャルなどの新古典派経済学の影響を受けていました。しかし、1920年代に入ると、ロシア革命や世界恐慌といった歴史的出来事を経験する中で、資本主義社会の矛盾や階級対立に関心を抱くようになり、マルクス経済学に傾倒していきます。

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「価値と分配の諸理論」執筆の背景と目的

ドッブが「価値と分配の諸理論:リカァドから今日まで」を初めて出版したのは1937年のことです。この著作は、経済学の中でも特に価値と分配の理論に焦点を当て、古典派経済学からマルクス経済学、そして当時の現代経済学に至るまでの歴史的な発展を批判的に検討したものです。ドッブは本書を通じて、正統派経済学が抱える問題点を明らかにし、マルクス経済学に基づいた独自の理論を展開しようと試みました。

ドッブは、「価値と分配の諸理論」を執筆するにあたって、主に以下の2つの目的を掲げていました。

1. **経済学における価値と分配の問題の歴史的な変遷を明らかにすること。** ドッブは、経済学の歴史を、単なる過去の理論の羅列としてではなく、それぞれの時代背景や社会状況を反映した思想の展開として捉えました。
2. **マルクス経済学の価値と分配の理論を擁護し、発展させること。** ドッブは、当時の正統派経済学が、マルクス経済学を無視あるいは曲解している状況を批判し、マルクスの理論の現代的な意義を改めて提示しようとしました。

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「価値と分配の諸理論」における主要な論点

「価値と分配の諸理論」の中で、ドッブは、古典派経済学から現代経済学に至るまでの様々な理論を、価値と分配の問題に対するアプローチ方法に基づいて、体系的に分類・整理しました。そして、それぞれの理論の strengths and weaknesses を客観的に評価しながら、マルクス経済学の立場から批判を加えています。

ドッブは、特に以下の3つの論点に焦点を当てて議論を展開しました。

1. **価値の源泉:** ドッブは、価値の源泉をめぐる古典派経済学(特にリカード)と、新古典派経済学の対立を分析し、労働価値説の妥当性を主張しました。彼は、新古典派経済学が主観的な効用を基礎とする限界効用理論を展開する一方で、古典派経済学は客観的な労働を価値の源泉と捉えていた点を指摘し、マルクスの労働価値説が古典派経済学を継承・発展させたものであることを強調しました。
2. **分配の決定:** ドッブは、利潤、賃金、地代の三つの分配範疇がどのように決定されるのかという問題についても論じています。彼は、新古典派経済学が生産要素の限界生産力に基づいて分配を説明しようとするのに対し、マルクス経済学は、資本主義社会における階級関係と搾取の構造によって分配が決定されると主張している点を指摘しました。
3. **資本主義経済の動態:** ドッブは、資本主義経済は、本質的に不安定なシステムであることを主張しました。彼は、マルクスの資本蓄積論や恐慌論を援用しながら、資本主義経済が必然的に景気循環や経済危機を繰り返すメカニズムを分析しました。

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