トルストイのセヴァストーポリ物語の思想的背景
トルストイの当時の思想状況
「セヴァストーポリ物語」は、トルストイがクリミア戦争中に従軍した経験に基づいて執筆された作品です。この時期、トルストイは若く、戦場での現実を目の当たりにすることで、人間性や社会、戦争の意味について深く考えるようになりました。
作品に反映された思想
「セヴァストーポリ物語」には、当時のトルストイの思想が色濃く反映されています。特に、以下の点が挙げられます。
1. **戦争の無意味さ・残酷さの告発:** トルストイは、戦争を英雄的な行為として美化するのではなく、その残虐性や無意味さを赤裸々に描き出しています。戦場で繰り広げられる死や苦しみ、兵士たちの虚無感を通して、戦争の悲惨さを訴えかけています。
2. **英雄主義の否定:** 従来の戦争文学では、勇敢な英雄が描かれることが常でした。しかし、トルストイは、そうした英雄主義を否定し、名もなき兵士たちの日常や心情に焦点を当てています。これは、戦争の現実をより正確に伝えるとともに、個人の内面に真実を見出すという、トルストイの思想を反映しています。
3. **人間の真実の探求:** トルストイは、人間にとって本当に大切なものは何か、という問いを常に抱えていました。戦争という極限状態を通して、人間の虚栄や欺瞞、そして愛や勇気といった本質的な側面が浮き彫りになっていきます。トルストイは、人間存在の深淵を描き出すことで、読者に人間の真実について考えさせようとしました。
これらの思想は、「セヴァストーポリ物語」だけでなく、後の「戦争と平和」や「アンナ・カレーニナ」などの作品にも通底するものであり、トルストイ文学の根幹をなすものです。