## トルストイのセヴァストーポリ物語の世界
###
戦争の現実
「セヴァストーポリ物語」は、1854年から1855年にかけてのクリミア戦争中のセヴァストーポリ包囲戦を舞台としています。トルストイは自身の従軍経験をもとに、戦争の現実を生々しく描いています。
戦争の描写において特徴的なのは、従来の文学作品に見られたような英雄的な行為や愛国心に満ちた描写ではなく、戦争の悲惨さや兵士たちの恐怖、精神的な苦悩に焦点が当てられている点です。
例えば、砲撃の轟音や負傷者のうめき声、死の恐怖に怯える兵士たちの姿は、戦争の非情さを読者に突きつけます。また、戦場で兵士たちが感じる日常的な退屈さや、上官への不満、故郷への想いに触れることで、戦争の現実がより一層浮き彫りにされます。
###
ロシア社会の描写
トルストイは戦争という極限状況を通して、当時のロシア社会の矛盾や問題点も浮き彫りにしています。
作中には、貴族出身の将校と、農民出身の兵士との間の溝が描かれています。将校たちは上辺だけの愛国心を語り、自分の保身しか考えていません。一方、農民出身の兵士たちは、自分たちが何のために戦っているのか理解しないまま、過酷な戦場で命を落としていきます。
また、都市部の人々の無関心さにも批判的な目を向けています。彼らは遠く離れた戦場で何が起きているのかを知ろうともせず、自分たちの生活にのみ関心を抱いているのです。
###
人間の真実
「セヴァストーポリ物語」は、戦争という極限状態における人間の真実を描いた作品でもあります。
トルストイは、人間は決して英雄的な存在ではなく、臆病さや利己心、虚栄心など、様々な弱さを抱えていることを容赦なく描き出しています。しかし、同時に、過酷な状況下でも、勇気や友情、自己犠牲など、人間の noble な側面が失われていないことも示唆しています。
彼は、戦争という非日常的な状況を通して、人間の本質に迫ろうとしたと言えるでしょう。