デュルケームの宗教生活の原初形態を読む前に
デュルケームの時代背景と社会学の誕生
エミール・デュルケーム(1858-1917)は、社会学という学問分野を確立した中心人物の一人とされています。19世紀後半から20世紀初頭にかけてのフランスは、フランス革命や普仏戦争、産業革命などの激動期を経ており、社会は大きく変動していました。 このような時代背景の中で、デュルケームは社会の秩序と統合に関心を持ち、社会学という新しい学問を通して、社会を科学的に理解しようとしました。
『宗教生活の原初形態』の位置づけとテーマ
デュルケームの主著である『宗教生活の原初形態』(1912年)は、宗教という普遍的な社会現象を、社会学的な視点から分析した画期的な著作です。デュルケームは、宗教の起源や本質を、神や超越的な存在に求めるのではなく、社会そのものに求めました。彼は、宗教現象を、社会集団が共通して抱く「聖なるもの」と「俗なるもの」の区別、そしてその「聖なるもの」に対する信仰と儀礼という観点から分析しました。
前提知識として重要な概念:社会的事実、集合意識、アニミズム、トーテミズム
『宗教生活の原初形態』をより深く理解するためには、デュルケームが提唱したいくつかの重要な概念を押さえておく必要があります。
* **社会的事実**: 個人を超越した、社会構造や文化、規範といった、人々の行動を規定する力を持つもの。デュルケームは、宗教もこの社会的事実の一種として捉えました。
* **集合意識**: 社会集団に共有された、価値観、信念、感情、行動様式などの総体。デュルケームは、宗教が、この集合意識を強化する重要な役割を果たすと考えました。
* **アニミズム**: 万物に霊魂や精霊が宿っているとする原始的な宗教観。
* **トーテミズム**: 特定の動植物をトーテムとして崇拝し、同一視する信仰体系。デュルケームはオーストラリアの先住民アボリジニのトーテミズムを分析し、宗教の起源に迫ろうとしました。
宗教に関する既存の学説への批判的視点を持つ
デュルケームは、『宗教生活の原初形態』の中で、それまでの宗教に関する学説、特にアニミズムや自然崇拝を起源とする説を批判的に検討しています。彼は、これらの説では、宗教現象の社会的な側面を十分に説明できないと主張し、独自の理論を展開しました。デュルケームの主張を理解するためには、彼がどのような学説を批判し、どのような問題意識を持っていたのかを理解することが重要です。
比較宗教学や文化人類学の知識があると理解が深まる
デュルケームは、オーストラリア先住民アボリジニの宗教を分析対象としましたが、『宗教生活の原初形態』では、他の様々な文化圏の宗教についても言及しています。比較宗教学や文化人類学の知識があれば、デュルケームの議論をより深く理解することができます。特に、原始宗教や部族社会における宗教儀礼に関する知識は、本書を理解する上で役立ちます。