ディルタイの精神科学序説に影響を与えた本
ヘーゲルの歴史哲学
ディルタイの『精神科学序説』は、人間の文化や歴史を解釈する方法を探求した重要な著作である。この書に大きな影響を与えた一冊として、ヘーゲルの『歴史哲学』が挙げられる。ヘーゲルの思想は、ディルタイの思想形成に多大な影響を与え、特に歴史と人間の精神の関係についての考察は、『精神科学序説』の中心テーマである「生の解釈学」の基礎を築く上で重要な役割を果たした。
ヘーゲルの歴史哲学は、歴史を精神の自己展開の過程として捉える。ヘーゲルにとって、歴史は単なる過去の出来事の羅列ではなく、理性的な法則性に基づいて発展していくダイナミックなプロセスである。彼は、歴史の中で人類は自由と理性の意識を高め、より高次な精神的な段階へと進歩していくと考えた。
ディルタイは、ヘーゲルの歴史の理性的な解釈には共感を示しつつも、その抽象性と体系性を批判的に検討した。ヘーゲルは、歴史を絶対精神の自己展開として捉えることで、個々の歴史的経験の多様性や個別性を軽視しているとディルタイは考えた。
ディルタイは、ヘーゲルの歴史哲学を批判的に継承しつつ、人間の生きた経験を重視する歴史理解の方法を模索した。彼が提唱する「生の解釈学」は、歴史を客観的な法則に基づいて理解しようとするのではなく、人間の内的経験や文化を通して理解しようとする試みである。
ディルタイは、人間の精神は歴史の中で形成されると同時に、歴史を創造する主体でもあると考えた。彼は、歴史を理解するためには、過去の出来事や作品を単に客観的に分析するだけでなく、その背後にある人間の感情、思考、意図などを解釈学的な方法によって理解する必要があると主張した。
このように、ヘーゲルの『歴史哲学』は、ディルタイの『精神科学序説』にとって、批判的に継承すべき重要な先行研究であったと言える。ヘーゲルの歴史における精神の役割についての考察は、ディルタイ自身の歴史理解の方法を深化する上で重要な刺激となったのである。