## ディルタイの「精神科学序説」の思想的背景
### 1.
歴史主義の台頭
19世紀後半、ディルタイが活動した時代は、歴史主義が大きな影響力を持つようになっていました。歴史主義は、あらゆる現象を歴史的発展の産物として捉え、歴史的文脈の中で理解しようとする思想です。ディルタイもまた、精神科学を自然科学から区別する上で、この歴史主義の影響を強く受けています。
### 2.
自然科学の方法への批判
当時の学問の世界では、ニュートン力学を基礎とする自然科学が成功を収めており、その方法が他の分野にも適用されようとしていました。しかし、ディルタイは、自然科学の方法では、人間の精神や文化といった複雑な現象を理解することはできないと批判しました。自然科学は、客観的な法則に基づいて現象を説明しようとするのに対し、人間の精神活動は、個性的で一回的なものであり、客観的な法則に還元することはできないと考えたのです。
### 3.
ヘーゲル哲学の影響と批判
ディルタイは、ヘーゲル哲学からも大きな影響を受けています。特に、歴史を精神の発展過程として捉える歴史哲学の考え方は、「精神科学序説」にも色濃く反映されています。しかし、ディルタイは、ヘーゲルの弁証法的な歴史観には批判的でした。ヘーゲルは、歴史を絶対精神が自己実現していく過程と捉えましたが、ディルタイは、歴史は多様で複雑な人間の生きた経験の積み重ねであり、単一の原理に還元することはできないと考えていました。
### 4.
ロマン主義の影響
ディルタイの思想には、19世紀初頭にドイツで興ったロマン主義の影響も看過できません。ロマン主義は、理性や客観性よりも、感情、主観性、個性を重視する思想です。ディルタイは、人間の精神を理解するためには、客観的な分析だけでなく、感情移入や解釈といった主観的な方法も必要であると考えました。これは、人間の精神を、その内面から理解しようとするロマン主義的な思想の影響と言えるでしょう。