## ディケンズの大いなる遺産から学ぶ時代性
社会階級と貧富の格差
ディケンズは「大いなる遺産」の中で、当時のイギリス社会における厳格な階級制度と、それに伴う貧富の格差を克明に描いています。主人公ピップは、孤児として貧しい鍛冶屋ジョーに育てられますが、謎の人物から莫大な遺産を相続し、紳士階級へと押し上げられます。
ピップの上流社会への上昇は、当時の社会における富と地位への強い憧れを象徴しています。彼は上流階級の人々の洗練された物腰や贅沢な暮らしぶりに魅了され、自身もその一員になりたいと願うようになります。しかし、その過程でピップは、自身の出自や育ててくれたジョーとの関係に葛藤するようになります。これは、階級制度が人々の価値観や人間関係にいかに深く影響を与えていたかを物語っています。
都市と農村の対比
「大いなる遺産」では、ロンドンとピップの故郷であるケント州の沼沢地帯という対照的な舞台が描かれています。ロンドンは、当時の産業革命の影響を大きく受け、活気に満ち溢れる一方で、貧困や犯罪も蔓延する混沌とした都市として描かれています。一方、ケント州の沼沢地帯は、閉鎖的で貧しいながらも、自然に囲まれた静かで素朴な場所として描かれています。
ピップは、ロンドンでの生活を通じて、都市と農村の光と影の両面を目の当たりにします。彼は、都市の華やかさや刺激に惹かれる一方で、農村の静けさや人々の温かさに懐かしさを覚えるようになります。この対比は、当時のイギリス社会が近代化の波に揺れ動く中で、人々が抱えていた不安や葛藤を反映しています。
犯罪と罰
「大いなる遺産」には、様々な犯罪や悪事が登場します。脱獄囚のマッグウィッチ、冷酷なコンペイソン、復讐心に燃えるミス・ハヴィシャムなど、登場人物たちの多くが過去の罪に苦しめられています。
ディケンズは、こうした犯罪や悪事を通して、当時の社会における司法制度の不完全さや、貧困や格差が犯罪を生み出す現実を描いています。また、罪を犯した者たちが、どのようにして更生していくのか、あるいは、過去の罪から逃れられないのかといった問題を提起しています。
女性の社会進出
「大いなる遺産」は、当時の女性の社会進出の難しさも浮き彫りにしています。裕福な家庭で育ったエステラは、男性に依存することなく、自立した女性であろうとします。しかし、彼女は、当時の社会通念に縛られ、自身の心を閉ざし、冷酷な女性へと変貌してしまいます。
エステラの姿は、当時の社会における女性の立場がいかに弱く、厳しいものであったかを物語っています。ディケンズは、女性の社会進出の必要性を訴えながらも、当時の社会が抱える問題点も同時に指摘しています。
「大いなる遺産」は、19世紀のイギリス社会をリアルに描写した作品であると同時に、人間の本質や社会の矛盾を鋭くえぐっています。私たちはこの作品を通して、現代社会にも通じる様々な問題について考えることができます。