## ダイシーの法と世論を読む前に
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ダイシーの時代背景
アルバート・ヴェン・ダイシー(1835-1922)は、イギリスの法学者、憲法学者、歴史家であり、ヴィクトリア朝後期からエドワード朝期にかけて活躍しました。ダイシーが生きた時代は、イギリス帝国が絶頂期を迎え、民主主義が発展していく中で、社会や政治が大きく変化した時代でした。
彼の代表作『法と世論』は、1905年に初版が出版されました。この時代、イギリスでは普通選挙法が制定され、労働者階級の政治参加が拡大しつつありました。また、社会主義思想が広まり、国家による社会福祉の充実を求める声が高まっていました。ダイシーは、このような時代の変化を背景に、法と世論の関係について考察しました。
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ダイシーの主要な主張
ダイシーは、『法と世論』において、法は世論の影響を強く受けて変化していくものであると主張しました。彼は、法律の制定や改廃は、単に立法府の意思決定によって行われるのではなく、社会に広く存在する意見や信念、すなわち世論を反映したものであると考えたのです。
さらにダイシーは、世論を形成する要因として、道徳、宗教、経済状況、社会階級などを挙げ、これらの要因が複雑に絡み合いながら、時代の変化とともに世論を変化させ、ひいては法を変化させていくと論じました。
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ダイシーの視点と限界
ダイシーは、『法と世論』において、法と世論の関係を歴史的に考察し、イギリスにおける法の発展過程を分析しました。彼は、中世から近代にかけてのイギリス法の変遷をたどりながら、その背後にある世論の変化を明らかにしようと試みました。
しかし、ダイシーの視点は、あくまでも19世紀後半から20世紀初頭のイギリス社会を前提としたものでした。彼が想定していた「世論」は、当時の限られた範囲での「公衆」の意見であり、現代社会における多様な意見や価値観を十分に反映しているとは言えません。
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現代社会における意義
ダイシーの『法と世論』は、法が社会の変化から独立して存在するのではなく、常に社会との相互作用の中で変化していくものであることを示唆しています。現代社会においても、グローバル化や情報化、社会の多様化などが進展する中で、法は新たな課題や要請に直面しており、ダイシーの主張は、現代社会における法のあり方を考える上でも重要な視点を提供しています。