ダイシーの法と世論の選択
ダイシーの法概念と世論
イギリスの法学者、アルバート・ヴェン・ダイシー(1835-1922)は、その代表作『法と世論』において、法の制定・改廃における世論の役割を分析しました。ダイシーは、法を「国家によって承認された行動規則」と定義し、それを「法典化された法」と「法典化されていない法」に分類しました。前者は議会制定法のような成文法を指し、後者は判例法のような不成文法を指します。ダイシーは特に、イギリス法における判例法の重要性を強調し、それが国民の習慣や道徳観を反映していると論じました。
世論の影響と限界
ダイシーは、法と世論の関係を考察する上で、世論が法に影響を与える過程と、その影響の限界を明らかにしようとしました。彼は、世論が法に影響を与えるためには、それが「一定の強さと持続性」を持つ必要があると主張しました。つまり、特定の法律の制定や改廃を求める声が、社会の中で十分に大きく、そして長期間にわたって継続されなければ、法を変える力にはならないと考えたのです。
ダイシーの分析における複雑さ
ダイシーの分析は、法と世論の関係を単純な因果関係として捉えるのではなく、両者の相互作用を重視していました。彼は、世論が法に影響を与える一方で、法もまた世論を形成する力を持つことを指摘しました。例えば、ある法律が長期間にわたって施行されることで、人々の意識や行動様式が変化し、その法律に対する支持が強まることがあります。
現代社会における課題
ダイシーの分析は、現代社会においても重要な示唆を与えてくれます。インターネットやソーシャルメディアの普及により、世論の形成と表明が容易になりました。しかし、その一方で、情報源の多様化や情報操作のリスクも高まっています。ダイシーの主張を踏まえるならば、現代社会においては、世論の「質」をどのように担保していくのかが、法の制定・改廃において重要な課題となるでしょう。