ダイシーの法と世論の入力と出力
ダイシーの法と世論における「入力」
ダイシーは著書『立法論』の中で、法の制定と発展における世論の影響について論じています。 ダイシーが考察対象とした「世論」は、単なる大衆の意見や感情ではありません。 彼によれば、それは「社会全体のうち、分別と政治的思考力を備えた部分の人々の、特定の時期における、特定の国における、特定の対象に関する、熟慮された意見」です。
ダイシーは、この「世論」が法に影響を与える主要な「入力」として、以下の3つを挙げています。
* **立法への直接的な影響**: ダイシーは、議会が世論の圧力によって特定の法律を制定したり、逆に制定を見送ったりする状況を指摘します。これは、選挙で選ばれた議員が民意を反映した政策を打ち出すという、民主政治の基本的なメカニズムに根ざしています。
* **司法への間接的な影響**: ダイシーは、裁判官が判決を下す際に、社会通念や道徳観念を考慮することを指摘します。これらの社会通念や道徳観念は、世論によって形作られる側面が大きいと言えるでしょう。
* **慣習法への影響**: ダイシーは、慣習法が社会の慣習や通念から生まれてくることを強調します。そして、これらの慣習や通念は、時代とともに変化する世論の影響を受けながら、徐々に形成されていきます。
ダイシーの法と世論における「出力」
ダイシーは、法が世論に対して影響を与える「出力」についても論じています。法は単に社会を規律するだけでなく、人々の考え方や行動を変化させる力も持っています。ダイシーは、法が世論に対して以下の2つの形で「出力」として作用すると考えました。
* **世論の形成**: 法律は、社会における問題に対する人々の意識を高め、特定の価値観や行動を促進することで、世論の形成に影響を与えます。例えば、差別を禁止する法律は、平等という価値観を社会に浸透させ、差別的な言動に対する批判的な世論を形成する効果を持つと考えられます。
* **世論の強化**: 既存の世論と一致する法律が制定・施行されることで、その世論はさらに強化されます。例えば、環境保護に対する意識が高まっている中で環境保護法が制定されると、人々の環境問題への関心はさらに高まり、環境保護を求める声はより大きくなります。
ダイシーは、法と世論の関係を一方的なものではなく、相互に影響を与え合う動的なものとして捉えていました。彼の分析は、法が社会の中でどのように機能し、社会をどのように形作っていくのかを理解する上で重要な視点を提供しています。