## ダイシーの「法と世論」の思想的背景
### 1.
イギリス法の歴史観
ダイシーはイギリス法の歴史を、法典化されたローマ法と異なり、慣習法を中心として発展してきたものと捉えていました。 彼は、イギリス法の根底には、国民の習慣や慣習、道徳観念といった「国民の常識」が存在し、それが法の形成と発展に大きな影響を与えてきたと主張しました。 これは、大陸法系の法典化された成文法とは対照的な視点であり、イギリス法の独自性を強調するものと言えます。
### 2.
功利主義の影響
ベンサムやミルに代表される功利主義は、ダイシーの思想に大きな影響を与えました。 特に、「最大多数の最大幸福」という功利主義の原則は、ダイシーの法思想における世論の重要性を説明する上で重要な役割を果たしています。ダイシーは、法は社会全体の幸福を促進するために存在すべきであり、そのためには、法が世論、すなわち人々の共通の欲求や道徳観と一致している必要があると主張しました。
### 3.
歴史主義の影響
19世紀後半、歴史主義はヨーロッパ思想界において大きな影響力を持つようになりました。 歴史主義は、法や社会制度は、特定の歴史的・文化的文脈の中で形成されてきたものであり、普遍的な原理に基づいて構築することはできないと主張します。ダイシーもまた、歴史主義の影響を受けており、法は抽象的な理論ではなく、具体的な歴史的経験に基づいて理解されるべきだと考えました。彼は、イギリス法の形成過程を分析することで、法と世論との密接な関係を明らかにしようとしました。