ソレルの暴力論の対極
非暴力抵抗のバイブル： ヘンリー・デイヴィッド・ソローの「市民的不服従」
ジョルジュ・ソレルの『暴力論』（1908年）は、政治的な変革における暴力の必要性と有効性を主張し、20世紀初頭のヨーロッパ思想に大きな影響を与えました。彼の主張は、大衆の情熱と行動を喚起する手段としての暴力の力に焦点を当てていました。
ソレルの主張とは対照的に、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『市民的不服従』（原題：Resistance to Civil Government、1849年）は、非暴力的な抵抗を擁護する強力な議論を展開しています。ソローは、個人が自らの良心に従い、不正な法律や政府の行動に抵抗する道徳的義務があると主張しました。彼は、1846年にメキシコ戦争に反対して人頭税の支払いを拒否した自身の経験に基づき、市民は政府の不正に加担するのではなく、投獄されることも辞さない覚悟で抵抗すべきだと訴えました。
ソローの『市民的不服従』は、マハトマ・ガンディーやマーティン・ルーサー・キング・ジュニアなど、後の非暴力運動の指導者たちに多大な影響を与えました。これらの指導者たちは、ソローの思想を基盤に、人種差別や植民地主義などの社会的不正義に反対する大規模な非暴力抵抗運動を展開しました。
普遍的な愛と非暴力： レフ・トルストイの思想
ソレルの暴力論と対照的なもう一つの重要な思想は、ロシアの文豪レフ・トルストイによって提唱されました。トルストイは、後期の作品、特に『戦争と平和』や『復活』において、キリスト教の愛の教えに基づいた徹底的な非暴力主義を主張しました。
トルストイは、あらゆる形態の暴力は、個人の魂を腐敗させ、社会に憎悪と苦しみをもたらすと信じていました。彼は、国家、戦争、そしてあらゆる形態の暴力に反対し、個人が自己の内部に潜む神性とつながり、普遍的な愛と非暴力の原則に基づいて生きることを呼びかけました。
トルストイの思想は、ガンディーに大きな影響を与え、インド独立運動における非暴力抵抗運動の重要な理論的支柱となりました。彼の思想は、20世紀初頭の平和主義運動にも影響を与え、暴力によらない社会変革の可能性を示唆しました。