ソフォクレスのオイディプス王の技法
アイロニー
ソフォクレスは「オイディプス王」において、様々なレベルでアイロニーを巧みに利用しています。
まず、**劇的なアイロニー**が挙げられます。これは観客がオイディプスの知らない真実を知っていることで生み出される効果です。オイディプス自身は自分が探し求める殺人者、つまり自分の父親を殺した張本人であることを知りませんが、観客はそれを知っています。彼の言動は、彼自身の無知と真実との間のギャップによって、観客にとって非常に皮肉なものとなります。
次に、**言葉のアイロニー**も効果的に使われています。オイディプスは劇中で「真実を明らかにする」と繰り返し宣言しますが、皮肉なことに、彼の努力は彼自身の恐ろしい真実を明らかにすることになります。また、彼が盲目の預言者テイレシアスを「盲目だ」と罵倒する場面も、後に彼が自ら目を潰すことになることを考えると、痛烈な皮肉と言えます。
これらのアイロニーは、観客にサスペンスと緊張感を与え、運命の不可避性、人間の無力さ、自己認識の困難さといったテーマを浮き彫りにする役割を担っています。
伏線
ソフォクレスは、後の展開を暗示する**伏線**を劇中に散りばめ、物語に深みと複雑さを与えています。
例えば、オイディプスがテーバイにやってくる前にライオス王を殺害してしまうという過去の出来事は、劇の冒頭で語られます。これは、彼が後に自分の犯した罪に直面することを予感させます。また、オイディプスが自分の出生の秘密を暴こうとする過程で、彼がテーバイに来た経緯や、彼が養父母を本当の親だと思い込んでいることなどが徐々に明らかになっていきます。これらの情報は、彼が実はテーバイの王子であり、自分の両親を捨てた張本人であるという真実へと繋がっていきます。
このように、伏線は観客に「何かが起こるのではないか」という予感を抱かせ、物語への没入感を高める効果があります。また、後の展開をより衝撃的なものにする役割も担っています。
使者と羊飼いの役割
使者と羊飼いは、物語の重要な局面で登場し、真実の解明に貢献する役割を担っています。
使者は、オイディプスがコリントスの王子ではなく、テーバイの捨て子であるという事実を告げます。これは、オイディプスの自己認識を揺るがし、彼自身の出生の秘密を探求するきっかけとなります。
羊飼いは、オイディプスが赤ん坊の頃、彼を殺すように命じられたにもかかわらず、哀れに思って彼を助けた人物です。彼は、オイディプスがテーバイの王家の血を引く者であることを証明する重要な証言をします。
彼らの登場は、物語に新たな展開をもたらし、オイディプスの運命を決定づける上で重要な役割を果たしています。
まとめ
「オイディプス王」は、アイロニー、伏線、登場人物の巧みな配置など、様々な劇作術を駆使して書かれた作品です。これらの技法は、観客にサスペンスと感動を与え、人間の運命、自由意志と運命、自己認識といった普遍的なテーマを深く掘り下げることに貢献しています。