スラッファの商品の商品による生産の選択
スラッファの『商品による商品の生産』の選択について
ピエロ・スラッファの主著『商品による商品の生産』は、1960年の初版刊行時に経済学界に衝撃を与え、その後の経済学研究、特にマルクス経済学の展開に大きな影響を与えました。しかし、この著作はスラッファが長年にわたって温めてきた経済理論研究の成果のほんの一部に過ぎません。本稿では、スラッファが残した膨大な未発表原稿や草稿、メモなどを分析することで、『商品による商品の生産』で彼が選択したテーマ、構成、そして表現方法にどのような背景や意図が隠されているのかを探ります。
スラッファの遺稿を詳細に検討すると、彼が当初構想していた著作は、1960年に出版されたものよりもはるかに広範なテーマを網羅した、より壮大なものであったことが明らかになります。彼は、貨幣、金融、資本主義の動態といった問題にも深く関心を寄せており、実際、これらのテーマに関する分析を相当な分量にわたって書き進めていた形跡が見られます。
では、なぜスラッファはこれらの分析を最終的に『商品による商品の生産』から除外することを決めたのでしょうか？ 彼の選択の理由はいくつか考えられます。
第一に、彼は『商品による商品の生産』を、価値と分配に関する彼の理論の、最も一般的かつ抽象的な提示の場と位置づけていた可能性があります。貨幣や金融などの要素を導入することは、議論を不必要に複雑化させ、彼の理論の本質を不明瞭にすることを懸念したのかもしれません。
第二に、スラッファは、彼の価値と分配の理論が、新古典派経済学に対する強力な批判として機能すると考えていたフシがあります。新古典派経済学は、資本を生産要素として扱い、その限界生産力に基づいて利潤率を決定しようとする立場をとります。しかしスラッファは、このようなアプローチは循環論に陥っていると批判し、価値と分配の問題は、技術的生産条件と労働者の実質賃金率によってのみ決定されると主張しました。
スラッファは、貨幣や金融などの要素を分析に組み込むことは、新古典派経済学との論争において、本質的ではないと考え、議論を純粋に価値と分配の問題に集中させることを選択した可能性があります。