## スミスの道徳感情論とアートとの関係
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美醜の判断と共感
アダム・スミスは『道徳感情論』の中で、人間の道徳的判断の基礎となるものとして「共感」の概念を提唱しました。彼は、私たちが他者の喜びや悲しみ、怒りや喜びといった感情を、あたかも自分のことのように感じ取ることができるのは、この共感の能力によるものだと説明しています。
スミスは、この共感の概念を美的判断の領域にも適用しています。私たちは美しい絵画や彫刻、音楽や演劇などを鑑賞する際に、作者の表現しようとした感情や、作品が表現する状況に共感することで、その美しさを感じ取ると彼は考えました。
例えば、悲劇の主人公が経験する苦しみや悲しみを、私たちが共感を通じて我が事のように感じ取る時、その悲劇は私たちにとって「美しい」ものとなります。逆に、作者の意図や作品の表現する状況に共感できない場合、私たちはそれを「醜い」と感じるでしょう。
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想像力と美的距離
スミスは、美的判断における「想像力」の役割も重視していました。私たちは芸術作品を鑑賞する際に、単に目の前の対象を認識するだけでなく、想像力を通じて作者の意図や作品が表現する状況を補完し、作品世界に没入しようとします。
しかし、スミスは美的体験には一定の「距離」が必要であるとも考えていました。例えば、実際に目の前で人が苦しんでいる場面を目撃した場合、私たちは強い恐怖や嫌悪感を抱き、その状況を「美しい」と感じることはできません。
芸術作品を鑑賞する場合には、私たちと作品世界との間に一定の距離が存在し、それが現実の苦しみとは異なる「美的苦痛」を体験することを可能にするとスミスは考えました。そして、この美的距離を保ちつつ、想像力を通じて作品世界に共感することによって、私たちは真にその芸術作品を「美しい」と感じることができるのです。