## スターリンのマルクス主義と民族問題の光と影
スターリンと民族問題
ヨシフ・スターリンは、マルクス主義の理論と実践において重要な役割を果たした人物であり、特に民族問題に関する彼の思想と政策は、ソビエト連邦とその後の世界に大きな影響を与えました。スターリンは、レーニンの後継者として、多民族国家であるソ連の統合と発展のために、独自の民族政策を展開しました。
民族自決権の承認と制限
スターリンは、マルクス主義の原則に基づき、全ての民族が自決権を持つことを認めました。これは、帝政ロシア時代からの大きな変化であり、抑圧されていた多くの少数民族に希望を与えるものでした。彼は、1913年に発表した論文「マルクス主義と民族問題」の中で、民族を「歴史的に形成された、言語、領土、経済生活、精神的様式における共通性、そして文化における共通性に示される心理的構造の共通性によって特徴付けられる、安定した人間の共同体」と定義し、民族の自決権を認めつつも、それが社会主義革命の目標と矛盾しない範囲でなければならないと主張しました。
しかし、スターリンは同時に、民族自決権は無制限に行使できるものではなく、プロレタリアートの独裁と社会主義建設の目標に服従しなければならないとも主張しました。彼は、民族主義を資本主義の道具とみなし、階級闘争を阻害する可能性を警戒していました。そのため、スターリンは、民族自決権を認めながらも、中央集権的な統制を強化し、民族運動を厳しく監視しました。
民族文化の振興と抑圧の両面
スターリンは、民族文化の振興にも力を入
れました。彼は、各民族の言語や文化を尊重し、教育や出版を奨励しました。これは、ソ連の多様な文化の発展に貢献し、民族間の相互理解を促進する側面もありました。
しかし、その一方で、スターリンは、ロシア化政策を進め、ロシア語を共通語として普及させようとしたことも事実です。また、中央政府の方針に従わない民族や文化は弾圧され、多くの知識人や芸術家が粛清の犠牲となりました。
強制移住と民族紛争の発生
スターリンは、第二次世界大戦中、国家の安全保障を理由に、特定の民族を強制的に移住させるという政策を取りました。クリミア・タタール人、チェチェン人、イングーシ人などがその対象となり、多くの犠牲者が出ました。これらの政策は、民族間の不信感を増大させ、その後の民族紛争の火種となりました。
スターリンの民族政策は、民族自決権の承認や文化振興といった「光」の部分と、中央集権的な統制や民族弾圧といった「影」の部分を併せ持つ複雑なものでした。彼の政策は、ソ連の多民族国家としての維持に一定の役割を果たした一方で、その後の民族問題の発生にもつながりました。