## スタンダードールの赤と黒に関連する歴史上の事件
フランス復古王政と七月革命
スタンダールの『赤と黒』は、1830年の七月革命直前のフランスを舞台としています。 七月革命とは、復古ブルボン朝最後の国王シャルル10世の反動的な政治に対する民衆の怒りが爆発し、わずか3日間で王位が転覆した革命です。
小説の主人公ジュリアン・ソレルは、ナポレオンに憧れる野心的な青年として描かれています。 ナポレオンはフランス革命の英雄であり、その後のフランス第一帝政の皇帝としてヨーロッパを席巻した人物です。 ジュリアンは、ナポレオンが成し遂げたような栄光を求め、社会の階段を上ろうとします。
フランス革命は、それまでの旧体制である絶対王政を倒し、自由・平等・博愛の精神を掲げて新しい社会の建設を目指しました。 しかし、革命後のフランスは混乱と恐怖政治を経て、ナポレオンの台頭を招くことになります。 ナポレオン失脚後、フランスは再びブルボン家が統治する復古王政へと移行します。
復古王政期、フランス社会は革命前の貴族階級が復活し、特権的な地位を取り戻していました。 一方、革命によって生み出された新興ブルジョワジーは経済力を持ちながらも、政治的な権力からは排除されていました。 ジュリアンはこのような社会構造の中で、自分の出自や能力に見合わない扱いを受けていると感じ、社会への復讐心を燃やします。
『赤と黒』のタイトルは、当時のフランス社会における二つの道を象徴しています。 「赤」は軍服の色であり、ナポレオンの時代のように武力によって出世する道を表しています。 「黒」は聖職者の服装の色であり、教会の権力に寄り添うことで立身出世を目指す道です。 ジュリアンは、最終的にどちらの道を選ぶのか、読者は彼の葛藤と苦悩を追体験することになります。
アントワーヌ・ベレ事件
『赤と黒』の執筆には、1827年に実際に起きたアントワーヌ・ベレ事件が大きな影響を与えていると言われています。 ベレは貧しい家庭出身の青年で、家庭教師として雇われた裕福な家の夫人と恋仲になりました。 しかし、身分違いの恋は周囲の反対に遭い、最終的にベレは夫人とその夫を銃で撃って殺害するという凶行に走ります。
この事件は当時のフランス社会に大きな衝撃を与え、新聞や雑誌で大きく取り上げられました。 スタンダールもこの事件に強い関心を持ち、裁判記録を詳しく調べたと言われています。 ベレの犯行動機や心理、そして彼が置かれていた社会状況は、『赤と黒』のジュリアン・ソレルのキャラクター造形に大きな影響を与えていると考えられます。
ジュリアンもベレと同様に、野心と愛情の間で葛藤する青年として描かれています。 彼はレナール夫人との恋愛関係を通して、上流階級の hypocrisy や腐敗を目の当たりにし、社会への怒りを募らせていきます。 そして、最終的に衝動的な行動によって破滅の道を辿ることになります。
スタンダールは、ベレ事件を通して、当時のフランス社会が抱える矛盾や闇を浮き彫りにしようとしました。 『赤と黒』は、単なる恋愛小説ではなく、社会に対する痛烈な批判を孕んだ作品として、現代でも読み継がれています。