## スウィフトのガリヴァー旅行記の光と影
人間性の肯定と批判
「ガリヴァー旅行記」は、しばしば冒険小説として分類されますが、その実態は辛辣な社会風刺を織り交ぜた作品です。スウィフトは、ガリバーという平凡なイギリス人男性を主人公に据え、彼をリリパット、ブロブディンナグ、フウイヌムなど、風変わりな国々に漂着させます。ガリバーの目を通して、読者は人間の善悪両面を浮き彫りにした描写を目の当たりにすることになります。
たとえば、小人の国リリパットでは、些細な事柄 — 靴のヒールの高さの違い — が原因で内乱が勃発し、隣国との戦争すら辞さない国民性を目の当たりにします。これは、当時のイギリスの政治や宗教対立を風刺したものであり、人間社会における権力争いや虚栄心の愚かしさを痛烈に批判しています。
一方、知性を持つ馬、フウイヌムが支配する国では、理性と徳を重んじる彼らの姿と、彼らに仕える獣のような存在「ヤフー」の姿が対比的に描かれます。ヤフーは人間の醜い欲望 — 貪欲、暴力、性欲 — を具現化した存在であり、ガリバーはこの姿に自らの属する人間種の醜悪さを見せつけられることになります。
理想と現実の狭間
「ガリヴァー旅行記」は、単なる風刺小説を超えた複雑さを孕んでいます。スウィフトは、人間社会の醜悪さを容赦なく描く一方で、理性や徳の高い社会を理想として提示しているようにも見えます。
特に、フウイヌムの社会は、理性に基づいた平和で秩序正しい理想郷として描かれ、ガリバーはこの社会に深く感銘を受けます。しかし、フウイヌムは人間的な感情を完全に排除しており、彼らの社会は冷酷で非情な側面も持ち合わせています。
最終的にガリバーは、人間社会とフウイヌム社会のどちらにも馴染むことができず、故郷に帰還した後も人間嫌いになってしまいます。これは、スウィフトが提示する理想と現実の大きな隔たりを示唆していると言えます。人間は愚かで醜い部分を持つ一方で、理性だけで生きていくことも不可能な存在なのです。