## ジョイスのユリシーズを深く理解するための背景知識
ジェームズ・ジョイスの生涯と作品
ジェームズ・ジョイス(1882-1941)は、アイルランド、ダブリン出身の小説家、詩人、劇作家です。カトリックの裕福な家庭に生まれ、イエズス会の学校で教育を受けました。しかし、次第にカトリック教会やアイルランドのナショナリズムに反発し、1904年にヨーロッパ大陸へと移住しました。その後、トリエステ、チューリッヒ、パリなどで暮らしました。ジョイスの作品は、アイルランド、特にダブリンを舞台にしたものが多く、彼の故郷に対する複雑な感情が反映されています。初期の作品には短編集『ダブリン市民』(1914)、半自伝的小説『若き芸術家の肖像』(1916)などがあります。『ユリシーズ』は、ジョイスの代表作であり、モダニズム文学を代表する作品の一つです。
ホメロス『オデュッセイア』との関係
『ユリシーズ』は、古代ギリシャの詩人ホメロスによる叙事詩『オデュッセイア』を下敷きにして書かれています。『オデュッセイア』は、トロイア戦争後、故郷のイタカ島への帰途についた英雄オデュッセウスが、10年にわたる苦難の旅を経て、ようやく故郷にたどり着くまでの物語です。『ユリシーズ』では、主人公レオポルド・ブルームの一日が、『オデュッセイア』におけるオデュッセウスの冒険に対応しています。例えば、『オデュッセイア』でオデュッセウスがカリュプソーの島に留め置かれる場面は、『ユリシーズ』でブルームが埋葬に出席する場面に対応しています。このように、『ユリシーズ』を理解するためには、『オデュッセイア』の内容を把握しておくことが重要です。
ダブリンの街と1904年6月16日
『ユリシーズ』の舞台は、アイルランドの首都ダブリンであり、物語は1904年6月16日の午前8時から翌日の午前2時過ぎまでの一日の出来事を描いています。この日付は、ジョイスが後に妻となるノラ・バーナクルと初めてデートをした日であり、彼にとって特別な意味を持つ日です。小説の中では、ダブリンの街並みやパブ、新聞社、病院、海岸など、様々な場所が登場します。また、当時のダブリンの社会情勢や人々の生活の様子が詳細に描写されています。ダブリンの地理や歴史、文化に関する知識は、『ユリシーズ』の世界をより深く理解する上で役立ちます。
登場人物
『ユリシーズ』には、主人公のレオポルド・ブルームをはじめ、様々な登場人物が登場します。ブルームは、ユダヤ系の広告 canvasser で、妻のモリーと娘のミリーがいます。もう一人の主要人物であるスティーヴン・ディーダラスは、ジョイスの初期の作品『若き芸術家の肖像』にも登場する、若い芸術家です。スティーヴンは、亡くなった母への罪悪感や、アイルランド社会に対する疎外感に苦しんでいます。ブルームとスティーヴンは、作中で偶然出会い、互いに父と子の関係のようなものを築いていきます。その他にも、ブルームの妻モリー、スティーヴンの友人バック・マリガン、ナショナリストの市民など、個性豊かな人物が登場します。
意識の流れの手法
『ユリシーズ』は、意識の流れの手法を用いて書かれています。意識の流れとは、登場人物の思考や感情、記憶などを、脈絡なく断片的に描写する手法です。そのため、『ユリシーズ』は、従来の小説のように、筋が分かりやすく展開するわけではありません。読者は、登場人物の意識の流れに沿って、彼らの内面世界に入り込んでいく必要があります。意識の流れの手法は、『ユリシーズ』の難解さの一因となっていますが、同時に、人間の心理を深く描き出すことに成功しています。
多様な文体
『ユリシーズ』は、意識の流れの手法だけでなく、様々な文体で書かれていることも特徴です。章によって、新聞記事のような文体、戯曲のような文体、問答形式の文体、パロディなど、様々な文体が用いられています。また、各章には、それぞれに対応する『オデュッセイア』のエピソード、象徴、技法などが設定されています。このような多様な文体は、『ユリシーズ』の複雑さをさらに増していますが、同時に、実験的な文学作品としての価値を高めています。
アイルランドの政治と社会
『ユリシーズ』が書かれた時代、アイルランドはイギリスの支配下にあり、アイルランド独立運動が盛んに行われていました。小説の中では、ナショナリズムやイギリスに対する反感、カトリック教会の影響力など、当時のアイルランドの政治や社会状況が反映されています。例えば、ブルームはユダヤ系であるため、アイルランド社会の中で疎外感を感じています。また、スティーヴンは、アイルランドのナショナリズムに批判的な立場をとっています。このようなアイルランドの政治や社会に関する背景知識は、『ユリシーズ』をより深く理解する上で重要です。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。