## シラーの自由についての周辺
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執筆の背景
フリードリヒ・シラーが「人間の美的教育に関する手紙」を執筆した1790年代のドイツは、フランス革命の影響を受け、大きな社会変革期にありました。啓蒙主義の理性崇拝に対する反動として、感情や感性を重視するロマン主義が台頭しつつありました。シラーは、フランス革命の暴力性やロマン主義の行き過ぎた主観性に危惧を抱き、理性と感性の調和による人間の自由と完成を目指そうとしました。
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作品の構成
「人間の美的教育に関する手紙」は、27の手紙という形式で構成されています。当初は、シラーのパトロンであったアウグスト公に宛てたものでしたが、実際には一般読者を対象とした論文的な著作です。内容は大きく3つの部分に分けられます。
1. **第1部(第1~9の手紙)**: 当時のドイツ社会の現状と問題点を分析し、理想的な人間像を提示する。
2. **第2部(第10~16の手紙)**: 美と芸術の役割と、人間の自由と完成における重要性を論じる。
3. **第3部(第17~27の手紙)**: 古代ギリシャを理想的な社会モデルとして提示し、美による教育の可能性を展望する。
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「自由」の概念
シラーは、当時の啓蒙主義的な自由観を批判的に継承しつつ、独自の自由概念を展開しました。
* **感覚衝動からの自由**: シラーは、人間が動物的な本能や欲望に支配される状態を「自然的状態」と呼び、真の自由とは、そこから脱却し、理性に従って行動できる状態だと考えました。
* **理性からの自由**: しかし、シラーは、理性のみを絶対視する啓蒙主義的な立場も批判しました。理性に従って生きることは、確かに自由への第一歩ですが、それはまだ不完全な自由です。なぜなら、理性はしばしば硬直化し、人間の感性や創造性を抑圧するからです。
* **美的自由**: 真の自由とは、「美的状態」における「遊戯衝動」に従って、理性と感性を調和させ、創造的に活動することです。美的状態とは、理性と感性が調和し、人間が内面的な自由を獲得した状態です。遊戯衝動とは、現実の目的や利益にとらわれず、純粋な喜びを求めて自由に活動しようとする衝動です。
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「美的教育」の意義
シラーは、理性と感性の調和を実現し、「美的状態」に至るためには、「美的教育」が不可欠だと考えました。美的教育とは、芸術に親しみ、美を体験することによって、人間の感性を陶冶し、道徳性を高める教育です。
シラーは、美は人間の内面に眠る理性と感性を調和させる力を持つと信じていました。美的教育を通して、人間は利己的な欲望や社会の偏見から解放され、真の自由と道徳性を獲得できると考えたのです。