ショーペンハウアーの女について/倫理についての原点
ショーペンハウアーの女性観の原点
ショーペンハウアーの女性観は、彼の哲学体系全体と密接に結びついており、断片的に理解することはできません。彼の主著『意志と表象としての世界』を始めとする著作群全体から、その思想の根幹をなす要素を抽出することで、初めて彼の女性観の原点に迫ることが可能となります。
1. イデアと現象界
ショーペンハウアーは、カント哲学を継承し、我々が認識する世界は「現象」であり、その背後には認識しえない真の実在「物自体」があるとしました。 そして、この「物自体」を「意志」と規定しました。
ショーペンハウアーにとって、この世界は「意志」の表象であり、人間を含むすべての生き物は、その「意志」に突き動かされているとされます。 そして、人間は、理性や知性を持つがゆえに、この「意志」の苦しみをより強く意識してしまう存在とされます。
2. 生の苦しみと性の役割
「意志」は盲目で、飽くことを知らず、常に欠乏と充足を繰り返すため、人間は苦しみから逃れることはできません。 この苦しみの連鎖から逃れるためには、「意志」を否定し、解脱を目指すしかないとされます。
ショーペンハウアーは、性衝動を「種の保存」という「意志」の最も強力な表明と捉えました。 つまり、恋愛や性愛は、個人の幸福のためではなく、「意志」の道具として利用されているに過ぎないとされます。
3. 女性に対する評価
ショーペンハウアーは、女性を「第二の性」と呼び、男性よりも「意志」の支配下に置かれていると見なしました。 そして、女性は男性よりも美的感覚に優れ、感情的で、現実的だが、理性や知性、道徳性に欠けるとしました。
彼の女性に対する評価は、当時の社会通念や偏見の影響を受けていることは否めません。 しかし、彼の女性観は、単なる女性蔑視ではなく、あくまでも彼の哲学体系に基づいたものでした。
4. 解脱と倫理
ショーペンハウアーは、「意志」の否定による解脱を説きましたが、それは現実的に容易ではありません。 そこで、彼は、苦しみを軽減するための倫理を説きました。
彼の倫理は、「同情」を基礎としています。 他者の苦しみを自分のことのように感じ、「意志」の支配から距離を置くことで、一時的な慰めを得ることができるとしました。 そして、芸術鑑賞や禁欲、そして最終的には「意志」の完全な否定による解脱を目指すとしました。