Skip to content Skip to footer

シュミットの憲法論を深く理解するための背景知識

## シュミットの憲法論を深く理解するための背景知識

###

ヴァイマル憲法体制の経験

カール・シュミットの憲法論を理解する上で欠かせないのは、彼がその理論を構築した時代的背景、とりわけヴァイマル憲法体制における政治的混乱と危機的状況です。第一次世界大戦後のドイツは、敗戦による国家の疲弊と社会不安、ヴェルサイユ条約による巨額の賠償金と領土の喪失といった厳しい状況に直面していました。こうした中で制定されたヴァイマル憲法は、比例代表制の導入や基本的人権の保障など、民主主義的な理念に基づく革新的な内容を含んでいましたが、同時に議会制民主主義の未成熟さや政治勢力の対立激化、経済危機といった様々な要因によって、その機能不全が露呈することになります。

シュミットは、ヴァイマル共和国の憲法学者として、この混乱した政治状況を目の当たりにし、議会制民主主義の限界と危機を痛感しました。ヴァイマル憲法は、自由主義的な多元主義を前提としたものでしたが、現実には左右両極端な政治勢力の台頭と対立によって、議会は機能不全に陥り、政治的安定は失われていきました。シュミットは、こうした状況を「政治的なものの消滅」と捉え、議会制民主主義では国家の統一と秩序を維持することが困難であると批判しました。

###

国家と主権の概念

シュミットの憲法論の中核をなすのは、国家と主権の概念です。シュミットは、国家を「政治的なものの存在形態」と定義し、政治的なものを「敵と味方の区別」によって規定されるものと捉えました。つまり、シュミットにとって、国家とは、内外の敵から自らの存在を守るために、敵と味方を区別し、決断を下すことができる主体であるということです。

そして、この国家の存立と秩序を維持する ultimate な権力をシュミットは「主権」と呼びました。シュミットは、主権とは「例外状態を決定する者」であると定義しました。つまり、主権とは、憲法の通常の枠組みを超えて、国家の非常事態において、法秩序を停止したり、新たな秩序を創出したりする権限を持つということです。シュミットは、ヴァイマル憲法における緊急事態条項の運用や、大統領の権限強化などを 통해、主権概念の重要性を強調しました。

###

立憲主義と民主主義の批判

シュミットは、ヴァイマル憲法体制の混乱を背景に、自由主義的な立憲主義と議会制民主主義を批判しました。シュミットは、立憲主義が前提とする「法の支配」は、政治的な敵と味方の区別を曖昧にし、国家の決断力を弱体化させると考えました。また、議会制民主主義は、多元的な意見や利益を調整することに重点を置きすぎるため、国家の統一と秩序を維持することが困難であると批判しました。

シュミットは、議会制民主主義における政党政治を「話し合いによる政治」と捉え、それが国家の意思決定を遅延させ、政治的な責任の所在を不明確にするものだと批判しました。そして、真の民主主義は、「国民の同質性」に基づくものであり、指導者による国民意思の体現によって実現されると主張しました。

###

政治神学批判

シュミットの思想を理解する上で重要なもう一つのキーワードは、「政治神学」です。シュミットは、近代の国家主権論や政治思想が、中世の神学概念を世俗化したものであると批判しました。具体的には、絶対的な主権概念は、神への絶対的な服従という神学的概念を世俗化したもの、国家に対する国民の服従は、神への信仰を世俗化したものだと指摘しました。

シュミットは、こうした政治神学的な思考様式が、近代国家における権力の正当化に利用されてきたと批判しました。そして、真の政治的な思考は、神学的概念から脱却し、現実の政治的な敵と味方の区別に基づくべきであると主張しました。

###

国際法秩序に対する批判

シュミットは、国際連盟を中心とする当時の国際法秩序に対しても批判的な立場をとりました。シュミットは、国際法秩序が、国家間の対立を解消し、恒久的な平和を実現するという理念に基づいているものの、現実には大国による国際政治の支配構造を隠蔽し、弱小国家の主権を制限するものだと批判しました。

シュミットは、国際法秩序が前提とする「普遍的な人道主義」や「世界市民主義」は、現実の政治的な敵と味方の区別を無視した抽象的な理念であり、国家の安全保障を脅かすものだと考えました。そして、国家は自らの生存と安全保障のために、国際法秩序の枠組みにとらわれずに、独自の判断と行動をとるべきであると主張しました。

これらの背景知識を踏まえることで、シュミットの憲法論における国家と主権、立憲主義と民主主義、政治神学、国際法秩序に対する批判といった主要な論点が、単なる理論的な議論ではなく、ヴァイマル憲法体制の危機的状況に対する具体的な対応策として提示されたものであることが理解できます。そして、シュミットの思想が、現代においてもなお、国家主権、民主主義、国際秩序といった問題を考える上で重要な示唆を与えていることを認識することができます。

Amazonで憲法論 の本を見る
読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

Leave a comment

0.0/5